銭湯に行くたびに、電気風呂という存在が気になる。

入ると体中がぴりぴりし、筆者はどちらかというと苦手である。
独特のビリビリ感と、「電気風呂」というモノモノしい名前も相まってか、筆者が訪れる銭湯では、電気風呂は常に閑散としており、どんなに混雑していても、必ずといってよいほど順番待ちをすることなく利用することができる。

一体、こんな謎の風呂を作ったのは、誰なのだろうか? 電気風呂を製造する、小西電機(株)に聞いてみたところ、「電気風呂は昭和27年ごろからあります」とのこと。ただし、小説家の海野十三(うんのじゅうざ)が、電気風呂をテーマにした小説を昭和3年に発表しており、「近頃大流行の電気風呂を取りつけてある」という表現があることから、少なくともこの時期には、電気風呂というものは一般に認知され始めていたようである。電気風呂が生まれた背景については、「古い話なので、よくわからないですが、元々は誰かが遊び半分でやり始めたものだと思われます」とのこと。

この電気風呂、少しずつ進化を遂げており、現在のものは出力電圧を調整できるほか、色々な波形の電流を流すことで、「ゆっくりもまれるような感じの刺激」や「トントンたたかれるような感じの刺激」を再現することができるそうだ。ただし、これらの調整はすべて、銭湯の運営者にゆだねられているため、どんな刺激の電気風呂を体験できるかは、銭湯の番頭さんのみぞ知る世界である。


電気風呂人気の実際のところについて、筆者が通う銭湯のおばちゃんに問い合わせてみたところ、「みんながみんな使うわけじゃあらへんけど、肩こりや腰痛のひどい人は重宝してんで。スポーツを良くする学生さんもよく使うみたいやわ」とのこと。電気風呂好きの知人によると、「痛いところや、体の悪いところが集中的にビリビリする気がする」ようで、何らかの効果があるみたいである。

そんな銭湯のおばちゃんに、初心者でも気軽に電気風呂に入るためのコツを聞いてみたところ、「そんなん知らんわ。よく使ってる人も、最初は怖かったっていうのが普通やで。まあ、なるべく電極から離れた場所から、少しずつ入ったらええんちゃうか。
兄ちゃん、若いんやから、弱気になっとったらあかんでえ」と、逆に説教されてしまった。

ちなみに、先に紹介した海野十三の小説のタイトルは、「電気風呂の怪死事件」。舞台は銭湯で、男湯の電気風呂で感電騒ぎが起こる中、女湯や天井裏で次々に客が殺されていくというかなりミステリアスな内容だが、「現在の電気風呂は安全で感電などしませんのでご安心ください(小西電機)」とのことである。
(珍満軒/studio woofoo)