「縁起が良くないこと」や「避けるべきこと」を、ドイツでもしばしば耳にします。最も有名なのは、毎年ほぼ1.7回の確率で訪れるという「13日の金曜日」でしょう。


13日の金曜日以外にも、タブー視されることがいくつか存在します。
よく耳にするのは、お祝いごとを事前に祝福してはならぬこと。例えば、「あさって、誕生日だったよね? 明日から出張で電話できないから、今日のうちにお祝いしておくよ!」なんていう電話はもってのほか。誕生日以前にお祝いしてしまうくらいなら、出張から戻った後、一週間遅れでお祝いする方が、二人の友情は長続きするはずです。

台所仕事の最中に大切なお皿を割ってしまった? 大変なことをしでかしてしまったようで気分が沈みがちですが、これがドイツであれば、ラッキー、ラッキー! 主に北ドイツの結婚式には、ポルターアーベントという、陶器や磁器を割る儀式があるくらい、割れた陶磁器は幸せのシンボルなのですから(ちなみに、割れて散乱した陶磁器を片付けるのは、新郎新婦の共同作業)。
但し、割る対象物にはくれぐれもご注意を。
幸せのシンボルであるガラス製品を割らないのはもちろんのこと、ましてや鏡を割ってしまうと、「この先7年はツキが無い」という言い伝えがあります。

さてここで、食事を楽しんだ二組の夫婦が、別れ際に握手をしている場面を想像してみて下さい。握手をしている四人の腕が、中央で十字(十字架)を成してしまうのは、縁起が悪いこととされます。つまり、複数の人が同時に握手をする場合は、お互いの腕が交差せぬよう、いちいち立ち位置を変えて握手をし直す必要があるわけです。

いくつも縁起の悪い話が続きましたので、最後にドイツ流の幸せのシンボルをひとつ。
鼻の頭までススで真っ黒けになった煙突掃除屋さんが、ドイツでは幸せ運び人として知られています。
独特の黒い制服に身を包んだ煙突掃除屋さんを見かけるだけでもラッキーなのですが、一部の地方では、煙突掃除屋さんを見かけたら、ただちに自分の服のボタン(上着でもシャツでも可)をクルリと一回転させると、願い事がかなうと信じられています。「卒業式と学生服のボタン」さながらに、服のボタンに何かが宿っていると考えるのは、洋の東西問わずということでしょうか。
(柴山 香)