ニューヨーク、バンクーバー、ロンドン、シンガポール、シドニー……などなど、世界各地に数えきれないほどあるチャイナタウン。漢字の看板があふれ、アジアの香りが漂うチャイナタウンは、エスニックムード満点。
海外にいて、さらなる異国情緒を味わえる場所だ。

日本にも横浜をはじめ、いくつか中華街があるが、海外のチャイナタウンとはだいぶ雰囲気が違う。ひとことでいうなら、非常に観光地化・繁華街化しているのだ。もちろん、海外のチャイナタウンも観光スポットとしてガイドブックなどに紹介されているが、現地の中国系住民の生活の場という雰囲気が色濃いところが多い。

一方、日本の横浜中華街などは、日本語で呼び込みをする店員もいるし、料理も日本人の口に合うものが多い。日本語が通じずに困ることなどなく、それでいて、ちゃんと中国的な非日常ムードも楽しめる。


なぜ、これほど違うのか? そのナゾを解き明かしてくれた本が、『なぜ、横浜中華街に人が集まるのか』(祥伝社新書)。作者は横浜中華街の老舗料理店「萬珍樓」代表の林兼正氏だ。

理由はシンプルだった。本のなかで林氏は、「世界の中華街は中国人のため、横浜中華街は日本人のため」と書いているが、たしかにその通り。実は、横浜中華街では、戦後の焼け野原からの復興の際に、「同郷の人々のための商売でなく、日本人相手の商売をすること」に決めたのだという。

そこに暮らす中国人にとって、中華街は大事な土地であり、故郷である。
だからこそ、子どもや孫たちへ町を残したい。そのためには町が賑わい、そこで商売が成り立つようにすることが大事。そんなふうに考えて町づくりをしてきた結果、いまでは年間2,300万もの人が横浜中華街を訪れている。

本では、横浜中華街の町づくりの歴史や発展の秘密、成功のルールなどを、あますところなく紹介。実際の取り組みのなかにも参考になることは多いが、なんといっても学ぶべきは町の人たちの「志」の高さだろう。損得の計算なしに、町を思い、子孫を思って、いかに動けるか。


代表的なエピソードがあった。中華街の一角がマンション建設用に売られてしまったとき、町の人たちが費用を全員で負担して買い戻したというのだ。マンションが建てばその通りはつぶれ、連鎖的にマンション建設が加速することもありえるからだ。買い戻しに必要な10億円、さらにその地に媽祖廟を建てる費用8億円。合わせて18億円を400軒が月に1万円強ずつ負担しながら30年かけて返していくという。町づくりに本気でなければ、とてもできることではない。


震災後のいま、日本にも一から町づくりや町おこしをしなければならないところは多いが、実は横浜中華街も、関東大震災と横浜大空襲によって、2度完全に壊滅している。そこから復興し、現在へ至る歴史に学べることも多いはず。

フラリといける日本のなかの異国、中華街。この本を読んでから訪れると、また違ったふうに見えるかもしれません。
(古屋江美子)