アメリカ本国では昨年の8月に公開されて、とんでもないピラニア映画らしいぞ、との噂は日本にも入ってきていたんだけど、全っ然っ劇場公開の予定が立っていなかったのね。待ちきれなさのあまりに輸入版のブルーレイディスクを買っちゃったという人喰い友達もいた。
なぜなら、いつかきっと日本でも劇場公開してくれると信じていたから。やっぱウチのちんまいモニターで見るより、映画館のでっかいスクリーンで地獄絵図を見たいじゃない。今年がダメでも再来年。再来年がダメでも再再来年。再再来年がダメでも再再再来年には、きっと公開してくれるだろうと信じていたんだ。
で、「ピラニア3D」の中の人はやってくれたよ! いよいよ日本でも公開が決まったのだ! ていうか、もうやってる! 夏に間に合った! 思い出いっぱいの夏休み最後のシメは、水辺ではしゃぐヤングが血に飢えたピラニア軍団に食い散らかされるという、最高の人喰いサマーでフィニッシュしようじゃないか。
さて、ここで「ピラニア映画」の歴史を簡単におさらいしておこう。
人喰いピラニアが登場するもっとも古く有名な作品といえば、1954年の「緑の魔境」だ。ジャン・ガスパーレ・ナポリターノという、なんだか美味そうな名前の監督によるこの作品は、アマゾン奥地の過酷な自然環境と、そこで暮らす人々の生活を紹介したドキュメンタリー映画である。川に落ちた牛にピラニアの大群が襲いかかり、あっという間に骨にしてしまうシーンが注目を浴び、まだピラニアの生態をよく知らなかった人々に、その恐ろしいイメージを印象づけた。
実際のピラニアは岸辺まで来ることは少なく、沖まで行かなければそれほど恐れることはないというが、うっかり水中に落ちると気配を察した数匹の先発隊がやって来て噛みつき、その後、水音と血の匂いに反応した本体の大群が一斉に襲いかかるのだ(ピラニア豆知識)。
続いては1978年、ジョー・ダンテ監督の「ピラニア」。一般的にピラニア映画として知られているのはこのへんからだろうか。軍の秘密兵器として作られた人喰いピラニアが、何かの手違いで施設を脱走して外部の人々を襲う、というプロットは、あらゆる人喰い映画のテンプレート的なストーリーでもある。
もともと凶暴な生物であるピラニアを、軍が開発した生物兵器という設定にすることで、さらにその残虐さを過剰なものにしているアイデアがおもしろい。
1982年には巨匠ジェームズ・キャメロンが「殺人魚フライングキラー」でデビューしている。邦題はむむむ……? という感じだが、原題は「Piranha II : Flying Killers」といって、前作の続編ということになっている。しかし、その出来はあまりにも悲しく、監督自身もこの映画はなかったことにしたいらしいので、かわいそうだから詳しくは触れない。とりあえず、飛んだらそれはピラニアじゃなくて人喰いトビウオだよ! とツっこんでおこう。
他にも「キラーフィッシュ 恐怖の人喰い魚群」(1978年)とか、「ザ・ピラニア」(1995年)とか、「メガ・ピラニア」(2010年)とかいろいろあるんだけど、そんなのまで解説してると文字数が尽きるのでこれくらいにして、問題は今回の「ピラニア3D」だ。
やはり本作最大の特徴は3D上映で「飛び出す!」ということに尽きる。何が飛び出すかといえば、そりゃあ真夏の水辺でビキニの女の子たちがガンガン踊ってるんだから、言わなくたってわかるだろう。
いちおう、これは1978年の「ピラニア」のリメイク、ということになってるようだけど、設定はちょっと変更してあって、ピラニアたちは軍の秘密兵器ではない。湖の湖底の裂け目から出現した、先史代の人喰いピラニア、ということになっている。理由なんかなんでもいい。喰えりゃいいんだ、喰えりゃ。
湖畔では、バカなリア充たちがド派手にパーティーをひらいている。おまけに「ウェット・Tシャツ・コンテスト」といって、Tシャツ姿の女の子たちにホースで水をガンガンぶっかけてそのスケスケ具合を競うという、頭のネジがまとめて6本ぐらい抜け落ちたようなイベントも開催されている。もちろん、最新の3D技術はこういうところにこそ使われている。正直、このシーンを見ているときの顔だけは人に見られたくない、と思ったね!
もうひとつの見所として、この映画は残酷描写のレベルが非常に高い、ということを言っておきたい。
時節柄、日本では宣伝ビジュアルもややおとなしめなものになっているが、昨年、ネットでアメリカからの特報が入ってきたときは、もっとえげつない撮影風景の写真が出回ってたんだよね。背中の皮膚が噛み裂かれてズタズタになってたり、下半身が喰いちぎられていたり……。
映画本編では、そういうものも隠さずバンバン見せてくれるので(しかも3Dで)、お好きな方は期待に胸をふくらませ、苦手な方は覚悟を決めて、見に行っていただきたい。
あと、最後にこのことも忘れずに記しておこう。
湖畔のパーティーではビキニ姿の女の子たちが激しいビートに合わせてガンガン踊りまくるんだけど、それをはやし立てるバカ男子どもが「谷間! 谷間!」って叫ぶのね。もう、頭がくらくらした。さらに「パイ・オツ! パイ・オツ!」って合唱するんだ。眼鏡の上に3Dゴーグルかけてたせいかもしれないけど、頭痛がしたな。バカすぎて。
でも、字幕を書いたやつがいちばんバカだ!(とみさわ昭仁)