2006年3月に公開された、映画『かもめ食堂』。小林聡美演じる主人公がヘルシンキで営む小さな日本食レストラン「かもめ食堂」を舞台に、個性的な人々との交流を淡々と、ゆったりと描いたこの作品はスマッシュヒットを記録し、公開から年月が経った現在でもファンが多くいると聞く。


筆者も、そんな“かもめ食堂ファン”のひとりだ。映画を見る度に、なんともいえない心地よい気分に浸れる。ちょっとした食事をしたりコーヒーを飲むのが、この上なく楽しみになる。そして、「かもめ食堂」へ行ってみたいなと思う。

この「かもめ食堂」、実はヘルシンキに実在するのだという。日本食レストランではなく、「カフェ・スオミ」という名のカフェとして経営されているらしいが、作品のファンとしては一度ぜひ足を運んでみたい。
とはいえ、ヘルシンキまではおいそれとはなかなか行けないのが実際のところ。

じゃあせめて、作中の主人公よろしく、おにぎりでも握って食べてガマンするかなあ……。と思っていた矢先に、知人から「鎌倉に“かもめ食堂”みたいな店がある」と聞いた。場所を尋ねると、JR大船駅から徒歩10分程度、イトーヨーカドー大船店や大船中央病院の近くにあるという。その名も、「シルバーナ食堂」。

「大船のヨーカドーなんて、週に一度は行くじゃないか……。
なぜ今まで気がつかなかったんだ……」とブツブツ後悔しながら、ヘルシンキどころか己の自宅近くにあった「かもめ食堂」へと足を運ぶ筆者。店に到着すると、なるほど、「かもめ食堂」のようなこじんまりとした外観である。「これじゃあ、気付かないのも仕方ないよね」と、取材同行者に必死で同意を求めるも、サラリと無視されつつ店内へ。

「シルバーナ食堂」の店内へ入ると、筆者は一瞬にしてテンションが上がった。白と水色を基調としたその雰囲気は、まさに「かもめ食堂」そのものなのである。ああ、夢にまで見た「かもめ食堂」に、ついにやってきたんだ……。
いや、「かもめ食堂」じゃなくて「シルバーナ食堂」だけど……。

そう、店の雰囲気こそ「かもめ食堂」に似てはいるが、ここはあくまでも「シルバーナ食堂」。メニューは、アジア料理・エスニック料理が中心だった。どうせなら、メニューも「かもめ食堂」みたいに和食なら良かったのに……。と思ったのも束の間の話。

どの料理も、非常にレベルが高いのだ。
この日はランチバイキングを注文したが、まろやかな辛さと歯ざわりの良い具材が食べるほどに食欲をそそるグリーンカレー、7種類の野菜をじっくり煮込んだという深い味わいの特製カレーを中心に、サクサクとした衣の中からジューシーな肉汁があふれてくる鶏のから揚げ、食べ応え十分なのにしつこくない味付けでいくらでも食べられる沖縄風フーチャンプルー、これまたいくらでも食べられるようなクセになる味のエビセン、そしてポテトサラダ、コールスローと、どれもこれもが素晴らしく美味しい。

取材に訪れた日は女性客が主だったものの、ランチバイキングなら食べ放題なので、男性も満腹になれる。しかも、美味しく。それでいて、850円とリーズナブルなのだから言うことなし。ランチバイキング以外にも、「蒸し鶏とカリカリジャコのヘルシー丼」や週替わりのオリジナル丼などもある。また、テイクアウトメニューもあり、「バイキング弁当」を注文すれば、空の容器を渡され、それにランチバイキングのメニューを好きなだけ詰め込める。
味でも、量でも満足させてくれるお店なのだ。

メニューのジャンルこそ違えど、お客を料理でもてなし、気持ちよくさせてくれるところは、まさに「かもめ食堂」と同様。ヘルシンキは遠いので、“鎌倉のかもめ食堂”こと「シルバーナ食堂」がおすすめだ。「シルバーナ食堂」は、神奈川県鎌倉市大船2-24-22。月曜~土曜の11時30分~15時まで営業。
(木村吉貴/studio woofoo)