最近オススメの料理漫画はありますか? と聞かれたとき、答える作品の1つに「高杉さん家のお弁当」があります。以前にもたまごまごさんがこちらの記事で紹介されていますが、ちょっとあらためて作品を紹介してみましょう。



博士号を取ったものの研究機関や大学教員公募に落ち続け、オーバードクターのまま三十路に突入してしまった主人公の「高杉温巳(はるみ)」。その彼のもとに、両親を亡くした中学生の従姉妹「久留里」がやってきて同居をすることになりました。

あまり他人に心を開かない、口数の少ない久留里ちゃん。でも、幼いころから母親と2人きりで生活をしていたので、高杉家の家事を積極的にこなしていきます。そして、主に家計節約のために自炊をしていくのですが、ここで温巳くんが保護者感を出すために、お弁当を担当することを久留里ちゃんに宣言するのです。こうして、久留里ちゃんが夕食を作り、温巳くんがお弁当を作るという、お弁当暮らしがスタートするのでした。

ところが今まで料理をしたことの無い三十路独身男性と中学生のコンビなので、最初のうちは失敗をするする。でも、二人で失敗を積み重ねながらお弁当を作っていくことで、徐々に二人の絆が深まっていくのです。

温巳くんは高校生のころ、7歳上の叔母である美哉ちゃん=久留里の母親にお弁当を作ってもらっていたのですが、そのときの味を思い出しながらハンバーグを作り「それ、高杉家の味だから」と格好つけてみたり。でも、節約大好き特売品大好きの久留里ちゃんに深夜コンビニで特売品じゃない調味料を買ったレシートを見つけられてにらまれたりします。

「高杉さん家のお弁当」では、名古屋を舞台にして話が展開していきます。そして、1巻からたびたび登場するのが、地理学を専門としている温巳くんがフィールドワークの先としてお世話になっている岐阜県の串原というところ。
山のてっぺんにぱかっと平地が開けているところです。

そんな串原で年に1回開催されているのが「全国ヘボの巣コンテスト」通称ヘボ祭り。3巻20話「Have a good ヘボタイム」で、温巳くん久留里ちゃんご一行はこのヘボ祭りに参加しています。

ヘボ祭りは基本的に文化の日である11月3日に開催されます。そう、祝日なのです。これは行ける! ということで、急遽思い立って行ってきましたよヘボ祭りに。まさに「高杉さん家のお弁当」の聖地巡礼です。

そもそもヘボとはクロスズメバチのこと。実は昔から中部地方の山間部はハチの子を食べる風習が盛んな土地だったりします。虫食は珍しいものではなく、昔から海の無いところでは魚が大量に獲れないので、タンパク質を得るために虫を食べる風習があるのですね。イナゴの佃煮も、海に面していない山形や群馬や長野なんかで食べられたりしています。

この「ヘボの巣コンテスト」はそのヘボの巣の大きさを競うコンテスト。
ヘボを食べるとは言っても、成虫を食べるわけではありません。なので、成虫を取り除いたハチの子が詰まった巣を売買するのですが、その重さを量って競い合おうというコンテストなのです。

まず会場に車で行った我々を迎えてくれた警備員さんが、最初に言った言葉。

「温泉? ヘボ?」

そう、会場は温泉施設のところにあるので、温泉目当ての観光客かヘボ祭りの観光客かの2択になるのですね。なんかこれだけでテンションが上がってしまいました。

会場は3つのエリアに分かれていて、1つは巣から成虫を取り除くビニールハウスで囲まれたエリア。次に、取り出した巣を展示してあるエリア。最後にヘボ料理とかを楽しめる屋台とかが出ているエリアとなっています。

ビニールハウスでは、完全に防護服を着た人達が巣から成虫を除去するのですが、これが面白い。はちとり(煙幕)に火をつけて巣箱に入れて、成虫を麻痺させます。そこで巣を取り出し、成虫を取り除き、巣盤とハチの子とさなぎだけの状態にしてビニール袋に入れます。これで準備完了。
これを計測するのです。

計測されるところでは重さと、購入できるかどうかが書かれている紙が貼られた巣が展示されています。キロ1万円もする高級品なのですよ! 各家庭でこれを購入して持ち帰り、はちとりを使って成虫を麻痺させて、巣からハチの子とさなぎを取り出して食べるそうです。

そして、屋台エリア。ここが目当てだったと言っても過言ではありません。午前中に完売必至な人気メニューである、ハチの子をすりつぶした味噌だれを使った「ヘボ五平餅」や、ハチの子やさなぎを入れて作った炊き込みご飯「ヘボご飯」などを楽しむことができます。もちろん、ヘボ以外の串原名物「こんにゃく」(これも高杉さん家のお弁当に出てきます)の入った豚汁とか、地物野菜なんかも買うことができます。どうやら我々が着いた時には売り切れていたのですが、ヘボ煎餅とかもあった模様。これは来年食べなくてはなりません。

一応ビニールハウスでヘボが逃げないようにしているのですが、会場はヘボだらけ。おとなしい蜂なので邪険に払ったりしないで刺激を与えなければ刺されないとはいえ、普通に服とかにばんばん止まったりするとちょっとドキっとします。友人の食べていた豚汁にヘボがダイブしたときにはどうしようかと思いましたよ。


で、肝心のお味ですが、これがとても美味しいのです。ヘボ五平餅は2種類ありましたので両方いただきました。片方は甘辛い感じでもう片方は炭火焼きの香ばしい感じに仕上がっていました。どこがどうヘボなのかは、ノーマルな五平餅が会場に無かったので比べられませんでした。

そして、ヘボご飯。食べていると、ご飯粒と思いきやハチの子が入っていたりします。こう、ご飯のつもりでかんでいると、プチュッとした感触があり、ギュッと甘い感じの味がするのですね。そちらはまだいいのですが、ほぼ成虫となっているさなぎは最後まで食べるのに抵抗がありました。えいやっと食べるとシャリシャリした感触が。さすがさなぎです。

というわけで、聖地巡礼が目的(?)で串原のヘボ祭りに行ってきましたが、大変楽しかったし美味しかったので来年もまた行きたいと思っています。高杉さん家のおべんとうファンの方も、ヘボファンの方も、虫食が大好きな方もそうでない方も、来年はヘボ祭りで僕と握手!
(杉村 啓)
編集部おすすめ