なんと言っても今年のハイライトは3月29日に開催された東日本大震災復興チャリティーマッチ。まるでシナリオがあったかのようなカズの魂こもったゴールと、そこから続くカズダンス。サッカーファンに限らず日本中が勇気づけられ、日本サッカー界にとってカズがどれだけ重要なのかを再認識する試合となりました。そのチャリティーマッチに向けてカズが日経新聞「サッカー人として」というコラムで発したコメントがまたステキなんです。一部抜粋します。
言える立場ではないけれども、いま大事なのは、これから生きていくことだ。悲しみに打ちのめされるたびに、乗り越えてきたのが僕たち人間の歴史のはずだ。とても明るく生きていける状況じゃない。でも、何か明るい材料がなければ生きていけない。暗さではなく明るさを。
この言葉通り、ゴールという「明るい材料」を提供してくれたカズ。
カズのコメントやインタビューを目にすると、どんな状況においても前向きでポジティブなメッセージで満ちあふれています。読むだけで自分自身も前向きになれる気がする至言の数々。そんなカズのコメントを集めた日めくりカレンダーがなんと発売されました。PHP研究所から出た『日めくり KAZU 魂のメッセージ』です。
ブラジル時代から今年の復興チャリティーマッチまで、カズが様々な場面で発してきた31個の名言が、カズ自身による解説とともに綴られています。
(※あのベストセラーキャプテン・長谷部誠さんも自身のブログで紹介しています。)
メッセージは31個のお楽しみなのでここで紹介するのは差し控えますが、注目していただきたいのはそれぞれ「いつ、どんな場面で発した言葉か」が記されている点。ぜひそこも含めて味わっていただきたいのです。
ブラジルでの下積み時代、フランスW杯でのメンバーからの落選、不遇のクロアチア時代、横浜FCで試合に出られない日々etc. 常に華やかなスポットライトを浴びているイメージのカズですが、そのまぶしいライト故により色濃く認識されてしまう影の側面もまたカズの人生。いや、むしろ多くの名言は辛い状況でこそ発せられているようにも思えるのです。どんな状況においても常に高いモチベーションを保ち、前向きに生き、ひたすらサッカーに取り組んでいることが理解できます。
こういう名言系の類いって、目にしたその瞬間は納得し理解したつもりになっても、時間が経つとついつい忘れてしまいがちです。でも、ひと月分の日めくりカレンダー形式であれば、最低でも毎月1度は目にすることができるというもの。同じ言葉を1年通して年に12回目にすることで頭の中で反復され、カズのポジティブ思考に少しでも近づけるのではないでしょうか。
もちろん、31個じゃ足りない!もっとカズの名言を読みたい!という方もたくさんいることと思います。そんな方には、今年1月に出版された新潮新書『やめないよ』をオススメします。冒頭で紹介した日経新聞のコラム「サッカー人として」2006年から2010年までの5年に渡る連載がまとまった一冊で、サッカー人・カズが日々のトレーニングで感じたこと、試合結果を受けての反省点や課題、日本サッカー界への提言など、読み応え満載のサッカーコラムです。
特に興味深いのは苦い思い出についても避けることなく真摯に向き合ってくれている点。「1998年W杯に行けなかったのも偶然じゃない。岡田武史監督がどうこうでもなく、僕に力がたりなかったのだと。努力が足りなかったのだ」とフランスW杯落選について振り返り語ってくれた回をはじめ、サッカーファンだからこそ知りたいエピソードが数多く収められています。また、チームメイト、対戦相手、グラウンド、そしてサッカーそのものをとにかくリスペクトすべき、というカズの日々の姿勢が何度も語られていて、人間・カズの魅力が凝縮されているのもまた魅力です。そのほかにも、国際サッカー連盟ブラッター会長から直接届いた手紙、イチローとの食事などからわかるカズ交友録、サッカーに限らずオリンピックやWBC、ボクシングなどのスポーツイベントを通じて考えたスポーツ論や自分の子どもに日々どんなメッセージを送っているかといった教育論も多数語られていますので、サッカーファンじゃなくても多いに刺激を受ける一冊になっています。
『やめないよ』に限らず、今年は長谷部誠『心を整える』や長友祐都『日本男児』、そしてなでしこジャパンの活躍から派生した数々のなでしこ関連書籍など、空前のサッカー本ブームとも言える1年でした。そんなサッカー本で満載だった2011年の先陣を切ったのがカズなら、トリを飾るのもやっぱりカズ。本日、カズの最新書籍『Dear KAZU 僕を育てた55通の手紙』が発売されました。
スポーツ雑誌『Number』誌上で不定期連載されていた、カズとその友人・知人による55通の手紙のやり取りをまとめた一冊。ペレ、ジーコ、バッジョ、バレージ、ストイコビッチ、加茂周、オフト、トルシエ、川口能活、柳沢敦、中村俊輔、香川真司、南野陽子etc. そのメンバーを並べただけでも豪華な一言。さらには連載にはなかったカズの2人のお子さんからの手紙も収録されていますので、カズファンでじゃなくても感動必至です。同じく本日発売の雑誌『Number/誰も知らないキング・カズ』と合わせ、ぜひ今年のカズ納めにどうぞ!
(※ちなみに、5月に発売された『Number/カズに学べ』に続く、今年2回目の三浦知良特集。10年以上『Number』を読み続けていますが、年に2回の“個人特集”ってちょっと記憶にないです。)
今シーズンが終了し、早くも来年の現役続行を発表したカズ。毎年この時期、カズのこれからのサッカー人生はどこまで続き、どのようなエンディングを迎えるかが注目を集める話題ですが、『やめないよ』に書かれていた次の言葉がすべてを語ってくれていると思います。
これまで本当にいいサッカー人生を送ってきた。でもそれは昨日までの話。
サッカー人を、そしてサッカーそのものをリスペクトするカズ。でも我々こそがもっとカズをリスペクトすべきなんじゃないかな。
(オグマナオト)