30分前行動は鉄則。マネージャーも付かず、一人で超アウェイのスタジオへ行き、座る席にも気を使う。
初対面の先輩がいれば、たとえ何十人が相手でも、一人一人にきちんと挨拶。オーディションには滅多に受からず、たまに来る仕事は名前も無い脇役ばかり。たった一言しかないセリフでも、アフレコ前夜は猛練習。殴られるシーンでは、自分で体を殴ったことも! だが、その努力が報われるとは限らない……。
それが新人声優!

声優と作家、二つの顔を持つ浅野真澄(ペンネームは“あさのますみ”)が、約10年の声優人生で実際に経験してきた出来事を、“多少のデフォルメ”もくわえて漫画化した同人誌『それが声優!』。真面目で不器用な性格の一ノ瀬双葉。
唄って踊れるアイドル声優を目指す萌咲いちご。15歳だけど、子役としての芸歴は10年もある小花鈴。デビュー間もない3人の新人声優を主人公に、“声優あるあるネタ”の数々が、4コマ漫画で展開していきます。
大先輩のセリフを収録中、電源を切り忘れた携帯電話から着信音が鳴り響き、“いっそ死にたい……”と震える双葉。これとよく似た失敗エピソードを、僕も声優さんのインタビューで聞いたことがあるんですよね。まさに声優あるある!

作画担当は、大ヒット作『ハヤテのごとく!』を連載中の畑健二郎
原作者が現役の声優、作画は人気漫画家という話題性もあり、昨年末のコミックマーケット81では、用意された数千冊が、わずか2時間で完売しました。

下ネタや毒舌も厭わないトークスタイルで、ラジオのパーソナリティとしても人気の原作者。声優業界を舞台にした同人誌を出すと聞き、一瞬「暴露本か!?」という想像も頭をよぎりました。しかし、『それが声優!』は、絵本児童小説などを手がける“白ますみん”こと、“作家あさのますみ”としての作品。新人声優の夢や悩みもストレートに描かれ、華やかな印象が強い声優という職業の舞台裏の姿も伝わってきます。みんな、地味で地道な努力を積み重ねているんですよね……。
声優の入門書的な側面もあるので、アニメファンや声優ファンだけでなく、声優に憧れる子どもたちにも読んで欲しい一冊です。

ただ、同人誌なので、普通のコミックスの感覚で考えると、すごく薄い本。34ページしかないので、同人誌を読んだことのない人は、手にした時に驚くかもしれません。でも、これは同人誌として平均的な厚さと価格。お金が大好きと公言してはばからない原作者が、搾取しているわけではないんですよ。念のための情報でした。

コミケ81では完売しましたが、後に再版。現在は、同人誌を扱う書店などで入手可能な模様です。詳しくは発行元である、あさのますみ&畑健二郎のサークル「はじめまして。」の公式サイトで確認してください。

サークル「はじめまして。」では、今年の8月に開催されるコミックマーケット82で、第2巻の『激闘!WEBラジオ編』を頒布予定とのこと。新人声優3人娘の中で、浅野真澄に最も近いキャラクターの双葉が、初めてラジオに出演し、どんな成長を遂げるのか。双葉は純粋で頑張り屋な子なので、毒舌上等の“黒ますみん”みたいなパーソナリティになると悲しいような……。
でも、“新人声優の浅野真澄”が、人気パーソナリティに成長する過程で抱いていた本音を知りたいような……。非常に複雑な心境です。
まあ、僕は白黒問わず“ますみん”のファンなのですけどね。幅広い才能だけでなく、行動力の凄さにはいつも驚かされているのです。もちろん、良い意味で!
(丸本大輔)