2011年12月31日に出頭した元オウム真理教幹部・平田信容疑者。

オウム事件をよく知らない幼い子どもでも、平田容疑者の顔と名前はみんな知っている。
それはなんといっても「平田、意外とでかい」などの強烈なインパクトの指名手配ポスターの影響だろう。

顔写真だけでは想像できない「183センチ」という高身長は、数字だけでは人の記憶に残らない。だが、すれ違う子どもや女性との対比と、「平田、意外とでかい」のコピーで、高身長が印象づけられる。さらに、子どもの「アッ! オウムの平田だ」というセリフも人目をひく、斬新なポスターだ。

警察が作るものとしては異色に思えるが、実はこれらのポスターは、あの「なめ猫(全日本暴猫連合 なめんなよ)」の生みの親・津田覚さんが手掛けたものだという。
そこで、制作当時のこと、平田容疑者が出頭した今の心境について、津田覚さんに聞いてみた。


「オウムの事件は、皆さん誰もが知っているとんでもない事件でした。日本の警察力をもって、これだけ警察が動いて、日本中の誰もが知ってる顔ですよ。なのに、今日まで潜伏していた。大半の人がもう死んでいると思っていたわけですよ。ところがどっこい、生きていた」

もともと津田さんがオウム真理教関連の指名手配ポスターやチラシを作ることになったきっかけは、津田さんの経営する5つの会社のうちの1つ「日堂アシスト株式会社」が、警視庁との様々な取引をしていたことだそう。
「ただの指名手配のポスターだとインパクトがないので、わざと賞金額を上に書いたり、漫画を使ったり、『意外とでかい』とか、子どものセリフとか、なるべく呼びかけ言葉を使ったんです」

当時、警視庁のなかでは、呼びかけ言葉が妥当かどうかという議論もあったそうだが、「人の目にとびこむキャッチーなものが必要」と主張し、「平田、意外とでかい」が誕生したというわけだ。

「残念だったのは、これだけチラシやポスターをバラまいても、逮捕は通報によるものではなかったことです。出頭した彼を見ると、ヘアスタイルを特別変えていたり、変装していた様子がないんですよ。経過年数だけトシをとってますが、それだけで、大きな変化がない。印象を変えるために丸坊主にしてるんじゃないかとか、マスクをかけてるんじゃないかとか、メガネは絶対にかけてるんじゃないかと思ってました。でも、それもなかった。外に出なければ見つからないという、当たり前のことがわからなかったんです。
協力者がいるということを想定していなかった」

ところで、いまの心境は……。
「途方にくれてます。罪の度合でいちばん重要だった平田信が逮捕になったことで、高橋克也、菊地直子のことをみんな忘れてしまいそうで。イメージ的には切り捨てでしょう。今後は改めて高橋・菊地の指名手配について、警視庁との連携で新しいポスターなどを思考中です」

平田は出頭した。だが、オウム事件はまだ終わっていない。

(田幸和歌子)