『痕跡本のすすめ』というタイトルが、なんだか興味をそそる。ページをひらくと、衝撃的な写真が目に飛び込んでくる。
とある漫画の単行本が一冊。その表紙カバーの中央に、ダダダダダダダダッと針で突いたような無数の穴。カバーをめくると、針は中の頁にまで突き通っていて、紙は破れ、ところどころちぎれている。
何かの怨みを晴らしたのか、あるいは呪いを込めているのか、とにかく薄気味がわるい。おまけにその漫画というのが、よりによって怪奇漫画の巨匠、日野日出志の『まだらの卵』だったりするのだから、始末に負えない。

いきなり極端な例が出てきてびっくりさせられるが、この本は古書店の棚などに並ぶ古本から、「書き込み」や「貼り込み」や「切り抜き」、あるいは「針の穴」のような、前の持ち主の“痕跡”が残っている本──すなわち痕跡本を集めて、それらの痕跡から元の持ち主の行動や、その痕跡の意味を解読してみせる図鑑だ。

わたしも古書マニアなので、書き込みがされた本を見かける機会は多い。なかには、弁当の箸袋がしおり代わりに挟まれていたり、表紙の人物にメガネが落書きされていたりするのもしょっちゅう見かける。
ところが、本書に登場する痕跡本は、どれもこれもそんなレベルじゃない。

ある本の持ち主は、書名が印刷された位置が気に食わなかったのか、ここへ移動せよ! と言わんばかりに矢印を書き込んで校正を加えていた。

安楽死について書かれたある本には、元の持ち主のものと思しき仏壇の写真がはさまっていた。とても立派な仏壇だ。