去年の12月、「世界で一番遅く日の出を迎える国」であったサモアが、日付変更線を変更し、「世界で一番早く日の出を迎える国」になった、というニュースが流れた。

このニュースを機に、あらためて日付変更線を眺めていると、これが意外とジグザグしており、興味深いので、そんな日付変更線に思いを馳せてみた。


いきなりで恐縮だが、日付変更線というのは実は、存在しない。

というと少し語弊があるが、日付変更線は、各国・地域が定める地域標準時をもとに設けられた「便宜上」の線であり、明確に法律や条約で決められたものではないのである。これはちょっとびっくりだ。

なので、先に述べたサモアのニュースも、「日付変更線を変更した」のではなく、「地域標準時を変更した」というのがより正確な表現であるといえる。

日付変更線がジグザグしているのは、各国が自国の都合に合わせて地域標準時を決めているからである。例えば、ハワイの南の方にキリバスという国があり、この付近の日付変更線がやたらデコボコしているのだが、昔は国土が日付変更線をまたぐ格好になっており、ここまで線が東側にでっぱっていなかった。

しかし、同じ国なのに日付が違っていると、例えば東側にある島は金曜日なのに西側にある島は土曜日だから電話をしてもつながらない、といった不便なことがあった。そのため、1995年に国内の地域標準時を変更した結果、今のようなでっぱりがうまれたということである。

ということで、日付変更線は、各国が標準時を変更するたびに変わっていくのだが、では標準時を変えるためには、どのような手続きが必要になるのだろうか? 日本を例に考えてみよう。

「日本が日付変更線の付近にある国だとして、日付変更線を変えるには、どういう手続きが必要になるのでしょうか?」というかなり無茶な質問を、法律相談サイト「法、納得!どっとこむ」に尋ねてみたところ、非常に丁寧な回答をいただくことができた。

先に述べたように、「日付変更線を変える=地方標準時を変える」ということなのだが、「日本の場合、標準時について定めた法律はなく、明治19年の『本初子午線経度計算方及標準時ノ件』という勅令(旧憲法下で制定された天皇による命令)が根拠となります」とのこと。こんな昔の勅令が現在も有効なの? と思ってしまうが、「日本国憲法の規定に抵触しないものは、引き続き政令としての効力をもつとされているのです」だそうであり、これまたびっくりである。


この勅令を改正すれば、日本の標準時を変更することができるわけだが、具体的にどうするのかというと、「上にも述べたように、この勅令は政令としての効力を持ちますから、改正するには法律または政令によることになります。法律であれば、国会の議決が必要ですが、政令の場合は、閣議の決定で改正することができます。ただ、標準時の変更は、国民生活にかかわる重大な変更なので、法律の制定によることになるのではないかと思われます」とのことである。

これと似たような例として、国民の祝日を変更したことが過去にあったのだが、このときも「国民の祝日に関する法律」を制定することで、「休日ニ關スル件」(昭和2年制定の勅令)を廃止することにした、という経緯があったのだそうだ。

最後に、サモアの話に戻ると、地方標準時を変更したことで、「世界で最も遅く落ちる夕日」という観光上のウリが、「世界で最も早くのぼる朝日」に変わることになりそうなので、ロマンチックな夕日を求めてサモアにハネムーンを考えていたカップルの方々はくれぐれもご注意いただきたい。
(エクソシスト太郎)
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