テレビアニメ「たまゆら~hitotose~」の2期制作決定を記念した、佐藤順一監督インタビューのpart2。引き続き、OVA「たまゆら」と、第1期「たまゆら~hitotose~」制作時のエピソードなどを伺っていきます。

(part1はこちら

――「たまゆら」の舞台は広島県の竹原市ですが、やはり監督が実際に現地を訪れて感じたものは、作品のテーマなどにも大きく関わっているのでしょうか?
佐藤 もちろん、そうですね。候補としていくつかの街を取材したのですが、田舎町の場合はどこでも、人の流出やちょっとした過疎化のような問題はあるんですね。中には、かなり後ろ向きな場所もありました。「こんな所、いつまでもいるような場所じゃないよ」とか言うお年寄りもいたりして(笑)。そういう街を舞台にすると、実際にファンの方が行った時、がっかりするじゃないですか?
――そんな聖地巡礼は嫌です(笑)。
佐藤 でも、竹原は初めて訪れた時に話を聞いた人の中にも、街が好きなんだなと感じられる人がたくさんいたんですね。
観光地でもあるので、フレンドリーさも持っていて。その空気感も、竹原を舞台にしようと思ったきっかけというか、重要な要素でした。
――この街の人たちとなら、一緒に作品を盛り上げていけるなという感覚があった?
佐藤 でも、ここまで盛り上げてもらえるとは思ってなかったです(笑)。そういう意味では、竹原の皆さんが、この作品をきっかけに竹原を訪れる人が増えたら良いなと考えて、前向きに取り組んで下さって。そのあたりのコラボレーションも手探りではあったのですが、いろいろと上手くいきましたね。
――では、テレビシリーズ第1期の「たまゆら~hitotose~」について伺いたいのですが。
主人公の沢渡楓(CV:竹達彩奈)だけでなく、周りのキャラクターにもスポットを当てるという事以外に、何か狙っていたことはありますか?
佐藤 そうですね……。何か1つ大きなポイントということではないのですが。(キャラクターたちが)ちゃんと、そこで生活している感を出せたら思っていました。それができたのは良かったですね。例えば、「hitotose」の終わりは、年末に年を越すところで終わろうと思っていて。実際に年末年始の竹原に行って、(作中に登場する)照蓮寺の山門で鐘を突いたり、一通り体験させてもらいました。
大晦日の夜に、街の人がぞろぞろと集まってくる風景なども見て、そこで得たものを物語に生かした感じです。そうする事で、リアリティが出てくるのかなと考えたのですが、そのあたりは上手くいったのではないでしょうか。
――はい、街の生活感を感じられたし、とても最終回らしい光景だったと思います。この機会に、1話から12話まで、すべてのエピソードについてお話を伺いたいところなのですが、時間もページ数も限られているので……。監督の中で、特に印象深いエピソードは何話になりますか?
佐藤 やはり7話ですね。全12話のセンターに置いている事からも、重要度がお分かり頂けると思います。

――7話「竹灯りの約束、なので」は、実際に竹原で毎年行われている「憧憬の路」というお祭りの日を描いたお話ですね。楓は、お父さんとの思い出のお祭りでもある憧憬の路をすごく楽しみにしているのに、当日、雨が降り出してしまって……という。
佐藤 憧憬の路も絶対に使おうと思っていたので、実際に見に行ったのですが、広島に着くと雨が降っていて。その後、雨が上がってから、飾られた竹筒の中に灯りが点いていき、濡れた石畳を照らす光景が本当に綺麗で。これはもう使うしかないだろうと。物語的にもうまく繋がりましたし、良いビジュアルも作れたので、相当に印象強いです。

――光景を見た時に、物語との絡め方も思いついたのですか?
佐藤 そうですね。憧憬の路の風景を見ながら浮かんだものが、そのまま作品に出てると思います。
――僕も、7話を見て憧憬の路に行ってみたくなりました。今度は、キャラクターについて聞かせてください。12話を描いていく中で、当初のイメージから変わったり、想像以上に膨らんだキャラクターはいますか?
佐藤 比較的、想定した範囲内に収まっているんですけど、(桜田)麻音に関しては、思っていたよりもちょっと深まったなと思います。
――確かに、麻音が中心のエピソード、いわゆる「麻音回」は多いですよね。

佐藤 メインキャラクターの中で、一人だけ竹原から離れた場所(瀬戸内海の大崎下島)から来ているという特殊な事情もあるんですが。あと、口下手で、代わりに口笛で気持ちを伝えるという特性も、意外と広がっていきましたね(笑)。1つには、4話、6話、11話の麻音の話を、全部、助監督の名取(孝浩)君がコンテにしてくれているので、そこの思い入れもあると思います。11話って、最初は麻音の話というよりは、(最終回に向かって)4人みんなで何かをやる話の前哨という感じで思っていたんですけど。実際にシナリオを作って絵になると、かなり麻音の話になっていて。それはそれで良かったと思うのですが。そういう意味では、麻音周りが膨らんでいきましたね。
――内気な麻音が頑張っていると、より頑張っている感が強くなるし、良かったと思います。
佐藤 OVAで楓をしっかり描いているからという理由もあって、こういう形になりましたが。もしOVAが無かったら、あれ(11話のメイン)は主人公の楓に与えられるべき設定ですよね。
――確かに。麻音を演じた儀武ゆう子さんが、ニヤニヤと喜んでいる姿が目に浮かびます(笑)。
佐藤 そうですね。「ギブなのに泣かされて悔しい」という反応も聞こえてきました(笑)。
――「hitotose」では、たくさんの新キャラクターも登場しています。中でも、第1話から登場した楓の幼なじみの三次ちひろ(CV:寿美菜子)は、重要かつインパクトも強いキャラクターだったと思います。
佐藤 楓がお父さんと死別したという事情を、OVAの時とは別の切り口で見せるためにも、新しいキャラクターを絡めたお話は必要でした。同じ形で描くと、OVAを見た人は、2回同じ内容を見せられる事になってしまいますし。
――楓が中学生時代までを過ごした神奈川の汐入で暮らしているちひろは、竹原で暮らしている塙かおる(CV:阿澄佳奈)と、対をなすキャラクターなのかなと感じていまして。2人とも、楓の事をすごく大切に思っていて。父親との思い出の地である竹原で暮らし始めるという楓の決心の意味を、本当に理解している親友ですよね。でも、性格はまったく対称的です。そこには、どのような狙いがあったのでしょうか?
佐藤 ちひろは、ドラマCD(「たまゆらじおどらまぷらす」)で名前だけは出ていたのですが、そのときから、どんなキャラクターにしようかは、ぼんやりとは考えていました。お父さんが亡くなった時、楓は悲しんで何もできなくなるかもしれない。そこから楓が立ち直っていくために、隣にいるのはどういう子が良いのかと考えたら、かおるみたいにガンガン引っ張っていくタイプではないだろうと思って。見ていて放っておけなくなるような子の方が、逆に楓が自立して立ち直っていくのかなと。それで、若干漫画チックな設定ですけど、もらい泣き度がハンパ無いという子にしました。
――もらい泣きどころか、楓より先に泣きますよね(笑)。
佐藤 そうですね。「お前、励ませてないよ」くらいの方が良いのかなと(笑)。
――ちひろに関しては、キャラクターデザインの前にキャスティングが決まっていたそうですが。性格などの設定とキャスティングは、どちらが先だったのでしょうか?
佐藤 わりと早い段階。性格などを考えるのと同時に、寿さんにやってもらったら面白いかなとは考えていました。
――寿さんは、監督の前作「うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜」にも、メインヒロインの一人、宮守夏音役として出演していましたね。僕は、「うみものがたり」や番組の公式ラジオ「うみものらじお」も大好きだったのですが。OVAの「たまゆら」を見ながら、「うみものらじおでパーソナリティだった阿澄さんや、準レギュラーだった儀武さんは出てるのに。阿澄さんの相方だった寿さんだけ、仲間外れだ……」とか思っていました(笑)。
佐藤 「hitotose」が決まる前に「うみものがたり」のメンバーで食事会をした時、「私だけ呼ばれてない……」という空気は、(寿さんから)フワッと漂ってましたね(笑)。
――口には出さないけれども?
佐藤 ええ、薄らとオーラは感じました(笑)。寿さんと初めて仕事をしたのは、「うみものがたり」だったのですが。夏音は相当に難易度の高いキャラだったのに、それをしっかりこなしてくれたんです。今回のちひろも、すぐに泣いてしまうという漫画っぽい属性があるので、ある程度の現実感を持たせながら演じるのは、ハードルが高い事なんですよ。
――地に足のついたキャラクターとして見せるのは、難しいということですね。
佐藤 そうですね。それに、言い方は悪いですけど(すぐに泣く子は)ウザイじゃないですか。それでも(視聴者に)嫌悪感を持たれず、そのお芝居をやってもらう必要があった。それも、寿さんならストレートにできそうだなと。まだ若いのに本当にしっかりしていて、こっちが用意したハードルを、きちんと考えて越えていく姿勢もある子なので。信頼もしていたし、このキャラを任せるくらいの感じでした。
(丸本大輔)
Part3に続く