「ドイツ人は凄くケチ」と言われる。どうも背景には日本人の常識では信じられないようなお金の支払い方、物に対する執着があるようだ。
では、論より証拠、実際にドイツ人に聞いてみた。

まず、徹底した「割り勘主義」だ。われわれ日本人の間ではふつう上司と部下では上司が、恋人同士では男が支払うもの。また、近所仲間でも誰かがすべて支払うのはよくあること。ところが、個人主義の徹底したドイツではこうした「奢る文化」など微塵もないという。喫茶店などでのコーヒー代、合計で数百円程度でも割り勘なのか。

「会社関係同士の場合、100%割り勘になると思いますよ」
え、えっ! そうなのかやっぱり。それではデートのときは。
「彼女と食べに行くとき、今回は彼、次回は彼女が払うということで、確かに事実上の割り勘になりますね」
「友達同士でビールを飲むのでも、全額を人数分で割って払います」

割り勘以外にもケチな現象はいろいろある。例を挙げると、日本人には馴染みのないチップの支払い。アメリカ人なら大抵、会計金額の10%をチップとしてくれるのに、ドイツ人はサービスに満足していなければ、チップを全然支払わないこともあるという。支払う場合でも四捨五入が多く、例えば66ユーロなら70ユーロ。
アメリカ人だったら細かく66ユーロの10%を計算し四捨五入も考慮して、73か75ユーロは支払う。ドイツ人とアメリカ人、どちらが正しいチップの支払い方なのかはともかく、ドイツ人がケチっていることは間違いない。

それから、結婚式のご祝儀の金額。年齢や社会的立場、新郎新婦との関係の深さによって幅はあるが日本では5~10万円くらいが多いだろう。だが、ドイツでは部下の結婚で上司が現金で何万円も出すことはまず考えられない。絶対ないと言っていいほどの世界。
出しても「せいぜい2000円程度」(!?)だという。新郎新婦の親戚でも贈ってくれるプレゼントの値段は5000円程度。さらに、お返しの習慣もなく、貰ったら貰いっぱなし。

日ごろの買い物をするスーパーマーケットではどうか。
「うちは安いよ」というアピールの意味で「ケチはカッコイイ(Geiz ist geil)」のスローガンを長年使っていたドイツで一番大きなヨドバシカメラみたいなチェーン店(Saturn)の例がある。まるでケチがドイツ人の誇りであるかのよう。

食料品販売の世界ではここ30~40年間で急速に普及している食料品ディスカウントチェーンがいくつもある。普通のスーパーよりも格安になっていて、ドイツ人の間で大人気になり、従来のスーパーチェーンの売り上げに大きな打撃を与えているとか。

そんな経済事情の中、ショッピングでのある嫁と姑の間での出来事。
姑:ねえ、今度のあなたの誕生日に何を贈ればいいか分からなくてちょっと困っているのよ。必要ない物を贈ってもしょうがないから、一緒にデパートに行って、あなたが自由に好きな物を選んでちょうだいね。
嫁:いいですよ。
よろこんで。
姑:だけど20ユーロ(約2000円)までよ。
嫁:えっ!? は、はい(安くてびっくり!)。
さらに、レストランでのこと。
「あなたの誕生日にレストランに連れて行ってあげる。一番好きなもの食べていいからね」(姑)と言われて喜んだのも束の間。
レストランに行ったら、姑は(妻の目の前の)メニューを見て、
「あらまぁ、高いはね、ここは!」と絶叫。嫁は唖然。仕方なく安い方の食事しか頼めなくなった。

他方、職場では個人ごとにコーヒーメーカーを各自持参することが常識(!?)。われわれが日ごろお世話になっている会社では少なくとも緑茶は会社がサービスしてくれるのに。
「理由はケチの他に、みんながそれぞれ好みの味に凄くこだわっているから」
しかも、自分のコーヒーメーカーに「柵」を設置し、他の人に自分のコーヒーが飲まれる危険を回避している。お見事!

ここまでネガティブな面ばかりが目立つが、ドイツ人は基本的に古いものを長く大切に使うという習慣もあり、たとえばバザーをよく利用したり、古い建物を何度も修復して住み続ける。これはただケチなだけとは言い切れない素晴らしい価値観を含んでいる。こうした面はドイツ人を見習うべきであろう。

日本も将来もしかして個人主義の社会になったら、ドイツのようなケチ文化が広がるのかも。
(羽石竜示)