まずやって来たのはパリの西隣にある町サン・クルー。ここは、犬のふん処理用簡易袋を街頭に置いている自治体の一つだ。セーヌ川を挟み、パリの市街に臨む閑静な住宅街が高台に広がる町であり、景観保護にも配慮を感じられる。市役所近辺を歩いていると……ありました! 紙製の袋には犬のイラストとともにフランス語で「清潔な私の街が好き」と書かれている。仮に雑貨屋で商品として置かれていたとしても違和感ないような、かわいらしいイラストだ。機能的にも、ふんの感覚を直接手に感じることなく捨てられるように、袋が設計されている。
パリから列車で1時間ほど東へ行った町エペルネーにも、ふん袋は設けられている。エペルネーは高級嗜好品であるシャンパンのメーカーが建ち並ぶ町であり、住民一人当たりの収入はフランスでもっとも高い。もちろん美観を保つために気も配られている。町の中心部、モエ・エ・シャンドン社やペリエ・ジュエ社などシャンパンの著名なメゾンがならぶシャンパーニュ大通りを歩いていると……ありました! ここの袋も、サン・クルーと同じ材質およびデザインのもの。
サン・クルーとエペルネーは紙袋だったが、他の種類の袋も見つけた。場所はフランスとスペインとの国境近くにあるミディ・ピレネー地方。カルカッソンヌという巨大な城塞で有名な町がある。ここの袋は黒のビニール製。イラストは同じくかわいらしいが、サン・クルーの袋などと違い、ふん処理に特化した機能性は持ち合わせていないのが特徴だ。
地方都市ではふん袋を見かける場所もある一方で、ふん公害が最も顕著なパリでは、このような景観に対する試みはあまりなされていない。フランスの飼い犬はおとなしく、しつけという面では日本と比べて、しっかりされている印象が強いフランスだが、愛犬のふん処理はどうやら別問題らしい。上を見て歩けば美しいと言われるパリ。下を見ても美しいと言える日が来るのはいつのことだろうか。
(加藤亨延)