英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語といったヨーロッパ言語を習得するって日本人には大変ですよね。文字も文法も発音もすべてがぜんぜん日本語と違うから。
とはいえ、中、高、大学と英語を勉強していながら、どうしてこんなにしゃべれないのか。

そこで、社会人になって英会話の必要性に目覚め、外国人教師に会話を教えてもらおうとするわけだが、その外国人会話教師が大変苦労しているケースがあるようだ。たとえば、ファストフード店で外国人の先生と日本人の生徒が英会話レッスンをしているのをよく見かける。ゆっくり繰り返し先生が短いセンテンスで質問しているのに、それでも生徒は回答に四苦八苦している様子。同じ日本人として赤面してしまうと同時に、先生がとても気の毒な感じ。

どうしてこんな生徒が出てきてしまうのか。過去に英会話とドイツ語会話を教えた経験があり、現在もYouTubeで日本人向けにドイツ語会話教室を開いてたくさんの生徒に教えているドイツ人、ロルちゃんは以下のように理由を挙げる。
・しゃべることに積極的ではない
・間違いを恐れる
・単語にフリガナが付いている
・外国語を勉強する年齢が遅すぎる
さて、これら理由の中身について詳しい説明を聞いてみよう。

■しゃべることに積極的ではない

「西洋人が大おしゃべりの性格に比べて、日本人は何と無口な民族なのでしょう! 外国語をしゃべろうとするときに、特に目立ちます」
対照的に、ヨーロッパでは南に行けば行くほどおしゃべりが激しくなる。つまり、ドイツ人から見ればギリシア人やスペイン人などは耐えられないくらいうるさくて、余計なことまでいっぱいしゃべるのだという。西洋には“Speech is silver,silence is golden”「雄弁は銀、沈黙は金」(トーマス・カーライル)という諺があるにもかかわらず……。だが、しゃべる量だけが問題ではなく、西洋人の喋るネタも日本人にとってかなり障害になっているようだ。


そのひとつの例が「ジョーク」の世界。西洋人が集まると、必ずといっていいほどナンセンスなジョークの言い合いが突如始まる。多くの日本人は西洋人のジョークを聞いて、どう反応すればいいか途方にくれる。その理由として、
・何のつもりでこの話(ジョーク)を教えてくれたかがさっぱり理解できない
・その話がジョークだったと気づかない
・ただ笑わせるためだけに言ったのに、ジョーク話の経緯を真剣に聞こうとする
・ジョークで使う言葉が学校で習う言葉と随分違うので理解できない
・ジョークが余りにも下品な話、人を貶し、嘲笑う話、人の悪口が多いことに辟易する
「日本人はこんなことは“言っちゃいけない”と習って育ってきたから、西洋であんな最低な話を聞いたら、まずその人間的レベルの低さに驚くでしょう。そのうえ、自分が今聞いたドイツ語が正しく理解できたかどうかも凄く迷うから、結局なんとも答えられず、西洋人からユーモアがないと見なされてしまうのです」

○挿話1「会社事務所での誕生日パーティー」

ある会社の同僚の誕生日に、会社にケーキを持ってきて、みんなで(勤務中に!)会議室に集まってそれをバクバク食べ始めた。それから、誕生日なのに本人の話になるんじゃなくて、とてもじゃないけど聞きたくもない話、下品な話、一切ためにならないような話が機関銃のように喧しくつぎつぎと飛び出てきた。もう何のためのパーティーなのかもさっぱり分からない。日本人(僕も)は大抵こういう集いをとても嫌がる。詰まらない話のうえに話の目的が漠然としているから、どう振舞えばいいかが分からず、しゃべるチャンス無しでパーティーは終わってしまった。

○挿話2「西洋人の自慢話」

日本人が西洋人またはドイツ人の家を訪ねると、その主人の長い長い自慢話に耐えなければならない。去年(旅行で)どこに行ったか、今年どこに行くか、来年どこに行くか、職場でどれだけの凄いことをやっているか、こんなに凄い趣味(車とか)を持っているなどの自慢話を聞かされるのだ。日本人は旅行の経験であんなに威張ることに慣れていないので、会話が成り立ちづらい。
また、家の主人をどうやって褒めればいいかも分からず、大変な思いをして最後まで頑張る日本人。表現力にそもそも限界があるから、余計に困る日本人。あ~大変、お気の毒。

■間違いを恐れる

「日本人はもしかして世界で一番遠慮勝ちで、控えめで謙虚な民族では。人を傷つけるのが嫌い、人に迷惑をかけるのもしたくない、その他、相手に悪い思いをさせるのも極力避けようとするように思います」
なので、間違えた文章を使ったら相手が嫌な思いをするからその文章が完璧であるということを確信できない限り、なかなか表そうとしない。また、間違えた文章を使って言いたいことが通じないことも怖がる。両方の理由で外国語で自分を表現することを控える。表現しない人とは当然会話が成り立たない。会話が成り立たない人はいつまで経ってもしゃべれるようにならないという悪循環に陥る。

その例として、日本人はよく外国の観光地で業者に騙されてもどう文句を言えばいいかが不安で何も言えず、結果的に日本人観光客は「いいカモ」と見なされる、一番の犠牲者なのだ。しかもよく狙われる。ほかにも、ドイツで働いている日本人で、賃上げ無しで何年間も同じ給料で黙って働いている人も多い。

「外人が日本に行ったら、最初のうちはどれだけ日本人に迷惑をかけているのかを忘れちゃ駄目! これは世界共通の事。だから、それは仕方ないこととして認めて、とにかく日本人もやたらいっぱいしゃべればいい」

いちいち、ごもっともです。(つづく)
(羽石竜示)
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