「ビンボーさん」「日野誠」「中沢健」「人間の友だち♪」「ペロ~ン」「どうも僕です」
これらのフレーズすべてに反応した人は、相当な『銭形金太郎』ファンのはずです。

ピンと来ない方のために説明すると、『銭形金太郎』とは2002年~2007年(2011年と2012年には特番を放送)にテレビ朝日系列で放送されていたネプチューンMCのバラエティ番組のこと。
夢や趣味に没頭するため裕福ではないながらも、明るく楽しく暮らす「ビンボーさん」に密着し、その生活ぶりをレポートするという内容でした。

この番組の面白さは、何と言っても強烈なインパクトのある一般人(名の知れていない芸人・アイドルなども含む)の生活を覗き見られるということです。“携帯電話に保存した焼肉の動画で白飯を食べる”など、素人ならではの荒削りな節約ライフが次から次へと公開され、特に深夜時代の『銭金』は、ドン引きしながらも目が離せなくなってしまうスリルと、「貧乏も楽しく過ごせば悪くないもんだな」と思わせる不思議なポジティブパワーがありました。

ある意味“キワモノ”とも言えるビンボーさんたちの生活をポップな笑いに昇華してみせた出演者とスタッフの腕もあって『銭金』はゴールデンに進出します。しかし、2007年、惜しまれながら終了してしまったのです。

『銭金』で味わったときめきが忘れられない…」
そんな視聴者を久々にワクワクさせてくれそうな番組が7月末にスタートしました。
それが、TBS系列にて月曜午後11:50~放送中の『なんだ君は!?TV』です。

特番での放送を経てレギュラー化されたこの番組は、「思わず『なんだ君は!?』と叫びたくなってしまうような新人類を取材する」というコンセプトのドキュメンタリー風バラエティ。

個性あふれる人物を芸人がレポートするという点はもちろん、AKB48をはじめとしたアイドルに収入のすべてを捧げる男性や、家賃2万8000円のアパートに住むグラビアアイドルなど、“新人類”という切り口の中に“ビンボー”の要素が含まれている取材対象も多く、『銭金』と共通する部分が多々あります。

そんな『なんだ君は!?TV』『銭金』が異なっているのは、レポートする芸人の立ち位置です。

サポーターとしてビンボーさんのもとを訪れていた『銭金』芸人のくりぃむしちゅーや土田晃之らは、あからさまなツッコミ目線で対象と接しつつ、時にはギャグを挟んだり、“お約束”のくだりを生み出したりして、芸人としての“自分の色”を全面に出していました。(ちなみに冒頭の「ペロ~ン」はくりぃむ・上田、「どうも僕です」は有田がレポートのたびに口にしていたフレーズ) 

一方の『なんだ君は!?TV』芸人たちは、ジャーナリストという立ち位置で、対象と一定の距離を保って接しています。
相手を“取材すべき人物”として冷静に掘り下げ、芸人たちは自分の色を出さずに“取材者”に徹するのです。(唯一、自分色がにじみ出てしまっているのは、精神科医の名越康文から「自己愛が強すぎる」と分析されたオードリー・春日くらい)

ツッコミのプロフェッショナルである芸人が、ツッコミどころ満載の「新人類」に、ツッコミを放棄して(という体で)対峙する。そんなひずみが生み出す違和感や緊張感が、『銭金』とはまたひと味ちがったスリルを感じさせてくれます。春日のように設定からはみ出してしまっている取材ぶりを見るのも楽しいし。

さらにポイントとなっているのは、MCのオードリー・若林の存在です。
ロケには出向かずスタジオでVTRを受ける彼が担っているのは、ストレートなツッコミ役。
「新人類」のズレているポイントを指摘したり、芸人のレポートぶりにダメ出しをしたり、笑いどころをわかりやすく視聴者に伝えています。

くりぃむしちゅーや土田晃之ら『ボキャブラ天国』でブレイクした芸人が、さらに飛躍するきっかけとなったのは『銭金』だと言う人も少なくありません。土田晃之は2011年10月21日にゲスト出演した『バナナマンのバナナムーンGOLD』Podcastにて、「自分が売れたポイントは『銭金』。くりぃむもみんなそうでしょう」と発言していました。

『なんだ君は!?TV』に出演している芸人は、メインのオードリーをはじめ、2008年前後にブレイクしたいわゆる“レッドカーペット世代”。『なんだ君は!?TV』でも、次世代を担う芸人たちがステップアップしていく過程を目撃することができるかもしれません。
(青柳マリ子)
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