NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』で、ヒロイン・梅子(堀北真希)と幼なじみの「ノブ」(松坂桃李)の結婚に対し、驚きや反発の声が多数挙がっていた。
というのも、かつて梅子には、優しく生真面目で仕事バカで、結婚を意識すると『完全なる結婚』という本を一生懸命読んでしまうほどの堅物の変人医師・松岡敏夫(高橋光臣)という恋人がいたから。
また、松岡は梅子の父を医師の先輩として尊敬し、実の父のように慕っていたこと、梅子の父も松岡を気に入っていた経緯もある。

さらに興味深いのは、「朝ドラ」では幼なじみとヒロインが結ばれるケースは稀だということ。「幼なじみへの感情が、ふと気づいたとき、恋に変わる」のは、少女マンガではよくあるパターンだけど、朝ドラでは珍しい。
たとえば、朝ドラでの幼なじみは、『カーネーション』の安岡勘助のように、ヒロインにとって最も近い存在でありつつ、「恋愛対象外」というパターンや、『おひさま』のタケオ、『ウェルかめ』の鈴木一平のように、ヒロインを一方的に思い続け、見守り続けるパターンが多いと思うのだ。

なぜ今回、“幼なじみとの結婚”を描いたのか。岩谷可奈子プロデューサーに聞いた。

「ノブと結ばれるのは最初の段階から決まっていたことですし、理由はありません。あらすじだけを追っている方は『どうして急にノブと?』とおっしゃいますが、松岡先生が出てくるのは6週目からであるのに対し、ノブは第一回から相手役というつもりで私たちは積み重ねてきました。恋愛フラグも立ててきました。言葉にならない微妙な感じなどを観てくださっている方には、二人が結ばれることは違和感がないと思います」

もちろんノブが梅子のことをずっと気にかけていることはわかったし、松坂桃李が人気俳優であることや、クレジットで早く名前が出ることなどから、最初からノブを「相手役」と信じて疑わなかった人もいる。
また、「ご近所同士の結婚」が昔はよくあったこと、「大恋愛の後に近くにいる大切な人に気づくこと」も、ある種のリアリティではある。
でも、ノブとの結婚への驚きには、梅子の元恋人「松岡」の計算外(?)の人気も影響していたよう。
岩谷プロデューサーは次のように語る。
「松岡はヒロインが好きになる人ですから、人気が出るように作ってはいますが、私たちはある意味『変な人』として松岡のキャラクターをとらえていたので、視聴者の皆さんの松岡ラブぶりには『そんなに感情移入するかな?』『なんでこんなヘンな人が好きなんだろう』という驚きはありました。やはり松岡を演じた高橋光臣さんのがんばりがあってこんなに愛されたのかな。視聴者のたぶん母性本能のようなものなんでしょうね」

松岡とヒロインの別れに対し、怒り・反発を訴える視聴者も続出したが……。
「松岡にとっての幸せは何か、梅ちゃんと結ばれることが幸せなのかということです。別に結婚だけが幸せじゃないと思うし、梅ちゃんにとっても、結婚がゴールではなく、普通の女性の人生の中で起こる一つのことなんです。
梅ちゃんの姉兄もみんな最初の恋愛がうまくいかないですけど、人生そんなもんじゃないですか」

梅子とノブとの結婚式には、町の人たちがみんな集まり、祝福した。この「一つの大きな家族」が生まれるシーンは、戦後の焼け跡で復興を誓う第一回からつながってくるものなのだと言う。

とはいえ、気になるのは、松岡のその後。実は渡米していた松岡が今後帰国し、再び登場することはすでに明らかになっている。また、10月にBSプレミアムで『梅ちゃん先生 ~結婚できない男と女スペシャル~』が放送されることも発表された。

「ヒロインと結ばれなかった松岡」の意味を改めて確認する意味でも、要注目だ。

(田幸和歌子)

※日本の女性と家族、仕事と恋愛、幸せのかたちを描いてきた NHK「連続テレビ小説」、通称「朝ドラ」。誕生から51年の歴史を新聞・雑誌等の資料から振り返るとともに、『おはなはん』『おしん』『はね駒』『ちゅらさん』『ちりとてちん』『ゲゲゲの女房』『カーネーション』制作者にインタビューを行った『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)は、9月13日に発売。