江戸時代の春画を特集した本が、ちびちびと定期的に、各所から出版されています。
なんでだろうね? 歴史ブームだから? いや違うなあ。

性に興味あるからにきまってるじゃないですか。
みんな好きね! ぼくも好き。

最近出版された『江戸の性愛図鑑』は、江戸時代のおおらかな性愛文化からエネルギーをもらおうという趣旨で書かれた、ちょっと変わり種で、わかりやすい歴史資料。
セックスレスが話題になる現代に対して、春画に出てくる男達は一晩に8回まぐわったとか、最高6人を相手にしたとか、もう豪傑のような精力なんですよ。すんげえな!それどこまで本当なの。
当時は腎臓から精液が出ると思っていたらしく、精力旺盛な人を「腎張り」と呼んでいました。でもさすがに8回はムーリーなので、江戸時代の指南書には「回数は2、3回がよい」と書かれていたそうな。
ふむふむ……いや、毎日2、3回ってやっぱ元気だよね。

掲載されているのは、歌川国芳や喜多川歌麿などの超有名ドコロから、描き手不明のものまで。数多くの春画が大量に載っています。
確かに春画を特集した本は数多く出ていますが、安価でたくさん見られるというのは導入としてはお得。
また浮世絵のノウハウについては一切触れておらず、徹底して「江戸時代の性生活」についての解説でまとめられています。

それを現代と重ねあわせて、おおらかで力強い性を学ぼう、という試みの一冊。
なんせ、詳しい人ならご存知だと思いますが、江戸時代の春画にはアナル、同性愛、自慰グッズ、売春、69、媚薬と、今以上にパワフル。エロマンガもびっくり。そりゃ江戸の人たちも夢中になって見るわけだ。
当然春画のすべてが現実ではないのですが、ここから江戸の人の性への探究心が見て取れるのは間違い無いです。

一番おもしろいのは、『閨中紀聞枕文庫』に描かれた、渓斎英泉による浮世絵。これ本にもまるまる掲載されているんですが女性器の内部の絵なんですよ。
女体解体新書、みたいな扱いなんですが、エロマンガなんかを読んでいる人にはおなじみの断面図絵なんですよ。
エロマンガ文化における「断面図」とは、実際には切ってないけど性交時などに女性の性器内部を描いたもの。ようはファンタジーです。
この浮世絵は、膣から2本の指をつっこんで、膣内部のひだや子宮口が緻密に描かれています。グロい!と感じる人もいるかも知れませんが、「エロい!」と感じる人も多いはず。

今のエロマンガの断面図だって別に医学的に描かれているわけじゃないですが、江戸時代はさらに医学知識は少ない、腎臓から精液出ると思ってたくらいです。そんな時代に膣内部を描いた事自体がもう探究心そのものです。

「陰戸(ほと)」や「マラ」への探究心も非常に意欲旺盛。形状を事細かに記していたことや、春画でも丁寧に描かれていたことが見て取れます。
今でこそ「みんな違ってみんないい」的扱いですが、当時はそのへんもざっくり。産後は特に「女陰の中の臓物がおおくなったようだ」と書かれるあたりが生々しい。逆に「下品」と呼ばれるほとは「沼田へ棒へ入れるに等しく」と書かれるほど。ひどいな。
マラのほうも膨張率の高い「麸マラ」が絶品とのこと。お、折れそう……。逆に太すぎ・長すぎは嫌われた様子。何の味もないと酷評されたのは「包」。
文字のとおりです。ひどいな。
そんなざっくり感も、なんか妙に心地よい。掲載された春画の、意思をもってそうなマラと蠢きそうなほとと見比べると、とてもユニークです。

最近では『女医が教える』等のハウトゥー本がヒットしましたが、江戸から明治時代にも「芸者が教える性愛本」が売れました。
その名も『女閨訓』。性交の際、いかにムードをもりあげるか、という心得から、気持ちいいセックスについてまで、事細かに女性目線で解説しています。
また、女性で性を探求していた代表といえば遊女。
江戸時代は基本的に陰毛は生やしっぱなしなので春画でもモサモサしているのですが、遊女たちは美しさの探求のために、毛抜きで間引いている様子が絵に残されています。
切る場合も毛先は線香で焼いていたとか、硬さをおさえてサラサラにするために酢を使っているなんて話も。リンスないもんなー。
つか江戸時代もきれいな陰毛が好きか。
そうか。ちなみにパイパン好きも多く、生えてない状態を「土器遊女」と呼んでいました。

春画は「写真」ではないので、どこまでが本当かはわかりません。しかしそこにこめられているのは「こうありたい」という欲望。
だからこそ面白い。確かに春画ならではの美もあるのですが、体位や熱気は今のエロマンガの構図とほとんど変わりません。
画面に文字が入っていることもあるのですが、それが「イクイク」「スウスウフウフウ」「ソレソレ」「死にます死にます」とのよがり声。
死にますて。いやはや、マンガかAVです。
「イク」っていつから生まれた言葉なんですかね。日本代々なのかな。

その他にも様々な文献で残っている性文化の記録書と数々の春画から、当時の性の様子が描かれ、今の文化と比較されている一冊。

江戸風俗の入門書としてはもってこいです。
シックスナインについての項目などは、記録には残っているものの春画でフェラチオがほとんど残っていない、など興味深い話も載っています。このへんは絵柄の構図の問題なので、美術寄りですね。
また絵や文献では女性側が積極的だ、というのも面白い。こういうところから、迫られて逃げ出しちゃう男の艶笑譚も生まれるんでしょう。
惜しいのは、自慰や貝合わせなどの項目で、それに該当する浮世絵が掲載されていないこと。そこは実物の絵が見たかったなあ。

当たり前っちゃ当たり前なんですが、全部モザイクや消しは入っていません。
エロマンガも数百年後にはモザイクなしで、日本の風俗文化として記録に残るんでしょうかね。

(たまごまご)
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