孤高の傭兵ガッツと傭兵集団「鷹の団」の団長グリフィスの出会い、そして別れを描いた「黄金時代篇」。そのクライマックスとなる「蝕」のシーンは、衝撃的な展開と描写で、世界中の読者にトラウマ級のインパクトを与えました。第3部では、あの「蝕」の光景をどう描くのか? ファンの期待も高まっています。
今回は、この話題作のメインキャスト2人にインタビュー。前編ではガッツ役の岩永洋昭さん、後編ではグリフィス役の櫻井孝宏さんのインタビューを掲載します。
2007年に俳優デビューし、特撮番組「トミカヒーロー レスキューフォース」「仮面ライダーオーズ/OOO」でブレイクした岩永さん。劇場版「ベルセルク」では、初めて声優に挑戦。魂のこもった演技を披露しています。
――岩永さんは、元々はモデルとして活動されていたそうですが。演じることに興味をもったのはいつ頃なのですか?
岩永 九州で大学生をしていたときにモデルを始めて。
――役者への入口は映画だったんですね。
岩永 昔から映画を見るのは好きだったので。まさか自分が、演じる側になるとは思ってなかったですけど。その仲間と一緒にやってみたら、すごく楽しくて。演じることもそうですけど。10人いないくらいの仲間で作ってて、そのシーンに出てないヤツが照明をやったりとか。そういう、みんなで作り上げることが、すごく楽しいなと思って。
――では、声優という少し違う形ですが、劇場作品の主役を演じることには、感慨深いものがあるのでは?
岩永 声優としてだけではなくて、TVや舞台とかを通じても、主役をやるのは初めてだったので。
――初めて主役を任されたことへのプレッシャーなどは感じましたか?
岩永 主役だからということよりも、『ベルセルク』って根強いファンも多いし、10年以上前には一度、テレビアニメ(1997年から放送された「剣風伝奇ベルセルク」)にもなってますよね。そこから(声優が)変わるわけだから、ファンの人にとって、それはどうなのかなとは多少思いました。けど、変なプレッシャーや責任感を感じすぎても、芝居が縮こまっちゃうので。窪岡(俊之)監督も「そのままやってくれていい」と言って下さったので、あまり迷いもなく突っ走ることができました。
――初めて、声優としての芝居を経験して、声優に対するイメージに変化は?
岩永 スタジオでアフレコすること自体は、「仮面ライダー」でもやっていたんです。だから、決して舐めていたわけではないんですが、何となく想像できていたつもりだったんですよ。自分の中では。でも、いざフタを開けてみたら、全然違って。声優さんはすごいなって純粋に思いました。
――特にどういった部分に驚いたのですか?
岩永 第1部と第2部は同時にアフレコをしたんですけど、絵が半分くらいできてない状態だったんですね。だから、リハーサル用のビデオと台本をもらって家でチェックしてるときも、まったく訳が分からなくて。
――絵の代わりに、「ガッツ」という字が出てきて、台詞の入るタイミングだけが指示されてるような映像だった?
岩永 そうそう。だから、見ていても「え? あ?」みたいな感じで。どうしようかと思いました(笑)。声優さんは、その映像に合わせながら、声だけで感情も表現しているわけで。あとは、声だけで、こんなにも幅広い表現ができるってことも、すごく勉強になりました。抑揚の付け方だったり、ちょっと強く言ったり、抑えたり。これから先、芝居を続けていく上でも生かせるかなと思います。
――アフレコ中、つい普段のクセで身体を動かしたりはしませんでしたか?
岩永 身体までは動かないですけど、表情は、そのときの芝居に準じてたと思います。あと、戦ってるシーンとかは、酸欠になってフラッと来そうになったりするので、倒れないように、足を開いてしっかり立ってやってました。今回の第3部は特にそうでしたね。最後の「蝕」のところはかなりやばかったので、踏ん張りながらやりました。
――試写で拝見しましたが、第3部のガッツも叫ぶシーンが多いですよね。
岩永 第3部はかなり絵も入っている状態でアフレコできたんです。その絵のクオリティが本当にすばらしかったので、負けられないなと。そういう気持ちは常に持ってました。でも、(アフレコは)やっぱり疲れましたね。体力的にもですが、精神的にも。できるだけ(ガッツに)同化できるように、気持ちも盛り上げてやっていたので。
――後半は、大変なシーンの連続ですよね。完成した映像は、もう見られましたか?
岩永 試写で見ましたが、ずっと力が入ったまま見てた感じでしたね。特に「蝕」のシーンになってからは、「うわ~。ガッツ、可哀想すぎる」って(笑)。
――本当に(笑)。原作を読んでない人は、すごく驚くと思います。
岩永 ですよね。絶対に「え? どうなってるの?」ってなるじゃないですか。いつも取材とかで言ってるんですけど、原作を知らない人が見て「すごい面白い」と言ってもらえるのが本当に嬉しいんです。友達や知り合いの中にも、『ベルセルク』は知らなかったけど、僕がガッツをやってるからって第1部や第2部を観てくれて、面白かったと言ってくれた人がいっぱいいて。「私は、ちょっと無理だった……」って人もいるんですけど。まあ、それはしょうがないので(笑)。
――戦闘シーンなどハードな描写も多いですし。苦手な人もいるのは仕方ないですよね。でも、「ちょっと無理」という人がいるのは、それだけ尖った作品だからだと思うのですが。役者として、そういった作品に出演できたことについては、どう感じていますか?
岩永 それは本当に嬉しいですね。今って、実写のドラマや映画でも、そういった表現を抑えたり、隠したりし過ぎてるところもある気がしていて。血はあまり見えないようにしたり。
――R15+指定ですね。
岩永 僕は、この作品は、それくらいの方がカッコ良いと思います。ただ悲惨さを描くわけじゃなくて、その先に見えてくるものもあるからこその、この表現だと思うので。
――これだけの光景や感情が表現できるんだぞって作品になってますよね。とは言いつつ、僕も試写のとき、クライマックスシーンは薄目で見てました(笑)。
岩永 僕も、アフレコの前にリハーサルビデオを見ただけで、うわってなりましたよ(笑)。
――なりますよね。ところで、オーディションでは台詞を一言発しただけで、窪岡監督が「彼がガッツだ」と即決し、櫻井さんからも初対面のときに「リアルガッツだと思った」と言われたという岩永さんですが。
岩永 ははは(笑)。
――岩永さん自身としては、「自分はこんな風にはできないな」など、ガッツとの違いや、憧れを感じる部分はありますか?
岩永 う~ん……。まず、強いってところは単純に憧れますよね。それと、鷹の団が認められて貴族にもなれるというときに、それを捨てて、鷹の団を去る。あの真似はできないですね。男としても、人間としても、そうありたいとは思いますけど。そこは純粋に憧れます。
――なかなかできないですよね。では、ガッツ以外のキャラクターで、親近感を覚えるキャラクターはいますか?
岩永 コルカスやガストンですね。この2人は、本当に人間味があるというか。ガッツとグリフィスは、それぞれ超越している部分があるので。逆に、だからこそ一番人間ぽいのかなと思いもするんですけど。でも、パッと親近感がわくのは、コルカスとかガストンたちですよね。
――分かります。コルカスとか、普通にそのへんの会社にいそうですし(笑)。さて、第3部の公開も近づいてきましたが、今のお気持ちは?
岩永 「あ~良かったね~面白かったね~」って言いながら、映画館を出るような作品ではないですけど。さっき言ったように、本当に包み隠さず描いている、すごくカッコ良い作品なので。原作を知ってる方でも、知らない方でも、その先にあるものを何かしら感じ取っていただければ嬉しいなと思いますね。公開されたら、僕も映画館へ観に行ってみたいですね。お客さんが、どんな反応するのか見たいです。
――「蝕」のシーンとか、スクリーンの側から、お客さんの顔を見てみたいです。
岩永 あ、それ良いですね。きっと、顔を背けちゃってるような人もいるでしょうね。
――でも、お客さんが顔を背けるくらいの反応をしたら、それはそれで成功って作品ですよね。
岩永 そうそう(笑)。
――では、最後に読者へのメッセージをお願いしたいのですが。正直、第1部と第2部を観てる人は、ほぼ確実に第3部も観ると思うんですね。
岩永 かもしれないですね。
――なので、まだ劇場版「ベルセルク」を見たことが無い人、「ベルセルク」を知らない人に向けてのメッセージをお願いできますか?
岩永 監督もよく言われてるんですけど、劇場版「ベルセルク」は3本で1つの作品なんです。第3部は、その完結編なので、第1部と第2部をまだ観てない方は、DVDなどでぜひ見ていただいて。第3部は映画館のでっかい画面、でっかい音で観て、いろいろと感じていただけたら、すごく嬉しいなと思います。僕の友達にも、ずっと「DVDが全部そろってから観る」って言ってるヤツがいるんですけど。
――まとめて観るのが好きな人って、いますね。
岩永 でも、そいつには「1回くらい映画館に行こうぜ」って言ってるんです(笑)。「第1部と第2部はDVDで良いから、第3部だけは劇場に行ってくれよ」って。
――同じことを読者にも伝えたい?
岩永 そうですね。僕個人としても「蝕」のシーンは、命がけ……は少し言い過ぎですけど。すごく気合い入れて臨んだところなので。ぜひ、映画館のでっかい画面で観て欲しいです。その価値がある作品だと、本当に思うので。
(丸本大輔)
(後編では、グリフィス役の櫻井孝宏さんが登場)