上から読んでも、下から読んでも同じ読み方をする文を『回文』というが、回文の川柳を作り続ける回文柳人がいる。その名もニノ宮よう子さん。
その数では日本一を誇るというニノ宮さんと、回文師仲間『THE さかさ座』の皆さんに、回文の作り方や、回文仲間についてお話を伺った。

――ニノ宮さんは、回文川柳を何首くらい作りました?
「750首です」

――750首!?
「ブログに載せているものもありますが、それ以外のものは眠っています」

ここで、ニノ宮さんのそのほかの作品を2作品だけ紹介。

・回数か 定期か訊いて 買うSuica
(かいすうか ていきかきいて かうすいか)

コチラは、なんとローマ字の回文!!
・アカシアが 濡れるや揺れる 長い坂
(akasiaga nureruyayureru nagaisaka)

――そもそも、なぜ回文川柳を作ろうと?
「2年前ぐらいにふと、『果たして、自分は世の中の役に立っているのだろうか?』と思うようになった時期がありまして…」

――そういう時期ってありますよね…(涙)
「まずは、てっとり早く、何かの一人者にならなきゃって思ったんです。何をしようかと、あれこれ考えてみたものの、例えば普通に川柳を詠んだところで、他にやっている人が多いし、色々と考えた結果、回文で川柳を作ろうと思ったんです」

――おお!「てっとり早く一人者になる」といっても、『回文川柳』だったら、てっとり早く考えるのは大変だと思いますが、どうやって考えているのですか?
「まずは5語と7語で使えそうな単語を、ひたすら考えます。目に付いた単語をひっくり返してみる…この繰り返しで、日々鍛錬ですね。テレビ番組の字幕も、右から読んでみたりしますし」

ほとんど職業病、いや、職業ではないので趣味病である。
二ノ宮さんはこのように、単語探しをしながら毎日最低1首ずつ、回文川柳をつくっている。

そんな二ノ宮さんの回文川柳は、すっかり軌道に乗ったかと思いきや…

「それが、全く軌道に乗った感じがしないんです。いつも、歯磨きのチューブをしぼり出す感じですね」

なんという苦労であろうか!
ちなみに、回文を作って楽しんでいる人のことを「回文師」と呼ぶが、そんな回文師が集まった「The さかさ座」というグループがある。(ちなみに「ざ・さかさざ」も逆さから読んでも同じ言葉だ!)二ノ宮さんもそのうちの一人。そこで、ここからは「The さかさ座」のメンバーの中から、赤川広幸さん、さとーさん(※6000作を超える回文をネットに発表!)にも加わっていただいて、お話を伺った。

●摩訶不思議!回文脳

――二ノ宮さんは、ひたすら考えていくとおっしゃってましたが、回文を作るコツってありませんか?
さとーさん「二ノ宮さんは、テレビの字幕を右から読んじゃうって言ってたけど、僕の場合はカラオケの字幕も見ちゃいますね」
赤川さん「やっぱり、最初は、新聞、漫画、電車の中吊りの文字などを見ながら、『あの言葉、逆さにして使えないかな』という具合で考えるしかないと思うけど、慣れていくと、コレはいけるんじゃないかっていう“カン”が働くようになるんです」

●目からウロコ!赤川さんの回文思考術

しかし、そうはいっても、これで話が終わってしまっては、【回文=作るのが大変】というイメージだけが残ってしまい、回文愛好家が増えない可能性がある。
せっかくなら回文師の人口が増えて欲しいではないか。そこで、赤川さんに回文を考える時の発想法を教えてもらった。

【例文】(赤川さん作「妖怪回文」)
住まい入れば、ロフト、冷凍庫付け、キッチン、ベンチ付き、結構トイレと風呂場、霊はいます

(すまいはいれば ろふと れいとうこつけ きっちん べんちつき けっこうといれとふろば れいはいます)

――すごいですね!まずどこから考えていきました?
赤川さん「【キッチン、ベンチ付き】あたりからですね。あとは、『ロフト』『風呂』といった、間取りにまつわるワードを色々と考えて、あてはめていきます」

同じジャンルの言葉を把握しておくことが、重要なのだそうだ。余談だが、赤川さんは武蔵野美術大学出身ということもあって、自作の回文に自分で描いた絵を添えて、回文のポストカードまで作っている。イベント等で販売したところ、売り上げは好調。
回文に定評があることから、弟子にしてほしいという女性まで現れたほどだ。

●謎の空間!回文師だらけのオフ会

と、ここで気になるのが回文師仲間のこと。聞くところによると、10代から50代まで数十人いて、年齢も性別も職業もバラバラなのだそうだ。

――回文師仲間の皆さんが集まると、どういった話をなさるんですか?
二ノ宮さん「ずーーーーっと回文の話をしてますよ。お互いの作品の話をしたり、『いつもどうやって作ってるの?』とか聞いてみたり。6~7時間話しても、話は尽きません(笑)」

なんと!
世代間同士のコミュニケーション不足が問題となっている現代において、回文を通じてつながった人と6~7時間もしゃべり続けるなんて。

赤川さん「職場で回文の話をしても、他の人はノってこないんです。回文仲間だと話も盛り上がりますしね(笑顔)」

●中には回文で歌を歌う人も!

ちなみに、仲間がそれぞれなら、作っている回文のテイストもそれぞれだそうだ。
さとーさん「私の場合は7文字回文というテーマで作っていますが、中にはストーリー性のある回文が得意な方や、下ネタ回文が得意な方まで色々といらっしゃいます。回文でブルースを歌う人もいますし…」

――回文で歌を!?
「あ、どうも、『回文ブルース』です」

現れたのは、その名もズバリ、回文ブルースさん。
様々なミュージシャンとのセッションで「うた歌う(うたうたう)」活動を通じて回文普及に努める回文伝道師。七七七五の26文字の回文を歌う『回文ブルース都々逸エクスプロージョン』としても活動。


ちなみに、お気に入りの回文は
・夜メキシコで腰キメるよ!
(よるめきしこで こしきめるよ)

――あ、アナタが回文を歌う方なんですか!?
回文ブルースさん「はい。むしろ、回文の歌詞でしか歌いません(キッパリ)」

――どういう感じですか??
「特に披露宴などのおめでたい場で、おめでたい内容の回文の歌を披露することが多いです。おめでたい用語って、『いわい』とか『ふうふ』とか、逆から読んでも同じ言葉が多いですし」

なんて良い人なんだ!
回文ブルースさんは、新郎新婦の名前を入れた回文でも歌うこともあるそうなので、気になる方はぜひ。

●初の回文トーナメントバトルを開催!

そんな中、世にも珍しい、回文トーナメントバトルが開催されることに!

第1回 『回文キングバトルトーナメント!!』
~お台場に猛者混戦!!全戦濃さも2倍だお☆
(おだいばにもさこんせんぜんせんこさもにばいだお)~

サブタイトルまで回文になっているではないか!ここまでやられると、けなげな感じがして、なんだか泣けてくる。

イベントは
2013年3月24日(日) 12時半開演。
【場所】TOKYO CULTURE  CULTURE
(お台場の観覧車のそば。
ZEPP TOKYO2階)
詳細はサイトにて。
http://tcc.nifty.com/cs/catalog/tcc_schedule/catalog_130209204167_1.htm
※15分で誰でも回文が作れるワークショップも開催

ちなみに、回文師の皆さんが回文に興味をもったきっかけが、「ある日突然、回文を作ろうと思ったから」という人が多いそうなので、当記事を読んで、突然、回文に興味をもった方は既にハマりかけている証拠かも。ぜひ、行ってみては?(取材・文/やきそばかおる)



●回文川柳・ニノ宮よう子さんのブログ
http://ninomiyayohko.jugem.jp/

●第1回 『回文キングバトルトーナメント!!』
~お台場に猛者混戦!!全戦濃さも2倍だお☆
http://tcc.nifty.com/cs/catalog/tcc_schedule/catalog_130209204167_1.htm