「負けるが勝ち」ということわざがある。「相手と争わず、相手に勝ちを譲ったほうが自分にとって有利な結果になり、結果的に自分の勝ちにつながる場合がある」というのがその意味であるが、大抵の場合、負け惜しみで使われる場合が多い。


この「負けるが勝ち」ということわざ、その意図するところはよく分かるのだが、純粋に言葉として考えると、「負けてるのになんで勝ちなのか」という点が完全に矛盾しており、考えれば考えるほど、実に意味不明である。

「負けるが勝ち」のように、反対の意味の単語をくっつけてできる言葉を「オクシモロン」という。オクシモロンは、それを見た人にインパクトを与えることができると同時に、味わい深い表現となるので、日本の慣用句やことわざだけでなく、現代の歌詞や漫画でもよく使われている。

例えば、テレビ東京系列で昨年12月まで放映されたテレビアニメ「神様はじめました」のオープニングテーマ「神様はじめました」には「ねえ神様 悪い子になりたいよ いい子にしてるから お願いだよ」という一節がある。神様に願いを叶えてもらうためにいい子にしているけど、叶えて欲しいお願いは「悪い子になりたい」であり、神様もどうしていいやら困ってしまうあたりが、オクシモロン的な表現であるといえる。

また、コミックZERO-SUMで現在も連載中野漫画「07-GHOST」第一巻には、「残酷なほどにやさしくて」というオクシモロン的な表現がある。

この表現が出てきたときの背景を説明すると、「バルスブルグ帝国の士官学校に在学する主人公のテイトが、自分がバルスブルグ帝国に滅ぼされたラグス王国の王子であるという事実を思い出し、思うところあって士官学校から脱走したところ、キズを負い、もうろうとする意識の中で故郷に雪が降る夢を見た」というものなのだが、このような複雑な立場やら感情を、非常に簡潔に表現できるのもオクシモロンの一つの魅力である。

一方で、名探偵コナンのアニメオープニングにおけるセリフ「見た目は子供、頭脳は大人」という表現は一見オクシモロン的だが、「高校生探偵の工藤新一が、黒の組織の毒薬によって体だけが小学生の姿に戻ってしまった」という設定を説明しただけであり、オクシモロンではない。

そのため、「コナンのオープニングのセリフ、オクシモロン的で深いよね」などとコナンファンに感想を述べ、「設定をちゃんと理解していない奴」として説教された筆者のようにならないよう、注意していただきたい。

オクシモロンがどういうものか、大体分かっていただけたと思うので、最後に、筆者が考えた、日常生活で使えるオクシモロン的な一言を紹介したい。

・当社の製品は、他社製品に勝っている点が一つもない、という点が、他社に勝っている点なんですよね(営業先での製品説明で困ったときに)

・いやー、これはもう捨ててしまいたいくらいに素晴らしい作品ですなあ!(理解できない芸術作品の感想を聞かれたときに)

・明日もがんばろう! 会社を倒産させるほどに!(会社の飲み会での締めの挨拶に)

このように、オクシモロンは使い方を間違えるとえらいことになる可能性があるので、気をつけていただきたい。

(エクソシスト太郎)

神様はじめました 公式サイト
http://mikagesha.com/
07-GHOST 公式サイト
http://07-ghost.net/index.html
編集部おすすめ