例えば料理に関する台詞にはこのようなものが。
「炙り〆さば。ハッキリ言ってトロより好きだ」
「焼き鮭には冷が合う。日本酒と鮭の皮はこたえられん」
「ビールとから揚げときたら、なんでこう…なんでこう合う。ほんとうずるい」
(あん肝苦手! と隣のテーブルで言っている女子がいるのを小耳にはさみながら)「臭みといえばそうかもしれない。然し熱燗とならば鼻の奥で臭みがうまみに変わる」
いやもうごもっとも! そしてワカコは美味しいものを食べたり飲んだりすると実に幸せそうな顔で「ぷしゅうーーーーー」と息をもらします。美味しいものは飲み込んだ後でも口の中に余韻が残るんですよね。その余韻を楽しんでいるさまを端的にあらわしたのがこの「ぷしゅうーーーーー」なのです。
さらには空豆を食べたときに鼻から抜けるような青臭い香りを「ふーーん」と表現したり、とかく息などの空気感がよくあらわれているのですね。いわば、美味しいものは香りもうまいし後味もうまいということなのです。
ワカコは常に全力で料理とお酒を楽しみます。仕事で嫌なことがあった日も、ビールをがーっといくんじゃなく熱燗とあん肝ポン酢でまったりと。慣れない業務で疲れたらちょっといいものを食べちゃうし、気になったメニューがあったら「人生いろいろ試してみなければわからない」と注文します。
一人酒ですから、店員との余計なコミュニケーションはほぼ無し。会話も無し。基本的には「孤独のグルメ」の主人公井之頭五郎と同じように独白で進みます。料理やお酒に対するうんちくもありませんし、お酒の銘柄も出てきません。ただ、ただ、その場その場の席を楽しむのです。唯一出てくるうんちくっぽいものも、家で飲んでいるときにワインを切らしてしまい、変わりにウイスキーを取り出して
「ワインに合うものはウイスキーにもたいがい合うんだよこれが!!」
というぐらいです。呑兵衛の理論ですね。いや、とてもよく合うと思います!
そんな呑兵衛なワカコが気になった方。現在pixivで8話分を無料で読むことができます。
(杉村 啓)
ワカコ酒 1巻