“ヘドバン”はヘッドバンギングの略である。メタルやビジュアル系(以下V系)のライブで見かける、頭を上下に振ったりぐるんぐるん回転させるアレである。
バンドメンバー全員のヘドバンがそろっているととても壮観。……といった基礎知識はさておき、そのヘドバンの名称をそのまま冠したムック『ヘドバン』が7月4日に発売された。
バブル全盛だった80年代後半〜90年代初頭にはメタリカなど、数多くのメタルバンドがヒットチャートを賑わせた。しかし2013年上半期のチャートを見る限りでは、ベスト10にランクインしているメタルやラウド系バンドのアルバムは、大御所バンドのブラック・サバスの『13』など5作ほどしかない。さらに音楽不況のあおりで音楽雑誌もバタバタと休刊しているいま、なぜ“ヘドバン”なのか? しかも「美少女アイドルの60ページ近い大特集があるらしい」「“プロインタビュアー”の吉田豪がデーモン閣下を直撃したらしい」「なぜかテリー伊藤のインタビューが入ってるらしい」などの情報が錯綜していて気になりすぎるので、編集者の梅沢直幸さんに話を聞いてみることに。
実はこのムックの誕生には、アイドルユニット・さくら学院の派生ユニットであるBABYMETALが深くかかわっているという。メタルの重低音サウンドと透明感のあるボーカルの組み合わせにキレッキレのダンスが、国内はもとより海外でも高く評価されている平均年齢14.3歳の3人組。最新シングルの『メギツネ』は、オリコンウィークリーチャートで7位という好セールスを叩き出している。
「昨年7月に目黒の鹿鳴館(メタルやV系バンドの聖地的ライブハウス)で彼女たちのライブがあったんですけど、ステージの真ん中に棺桶を置いてみたり、かわいい女の子達なのにMCが一切なかったりして、かなりインパクトがあったんですよ。メタルには詳しくないはずの彼女たちのなりきりぶりに驚いたし、メタルをよくわかっているスタッフが仕掛けるさまざまな演出も含めて、カルチャーショックを受けました。これだけメタルを楽しく、おもしろいエンタテインメントとして見せてくれるBABYMETALを、きっとメタル系の雑誌では取り上げないだろうし、アイドル誌ではロックファンやメタラーにアピールできない。このおもしろさを、メタルをわかっている人間がきちんと伝えなければと思ったんです」
60ページにおよぶ特集には本人たちによる楽曲解説のほか、彼女たちの音楽の背景にある30枚のメタルアルバムの紹介、プロデューサーのKOBAMETAL氏や振り付け師のMIKIKOMETAL氏(Perfumeらの振り付けも担当)らのインタビューなど、wikipediaもビックリのディープなBABYMETAL情報がギッシリ詰まっている。
その後には、X(現X JAPAN)が1988年にリリースしたインディーズ時代の伝説的なアルバム『VANISHING VISION』の特集が続く。V系バンドの元祖といわれるX JAPANだが、メタルのジャンルの中でも特にテンポの速い“スラッシュ・メタル”をベースにした、激しくドラマティックなサウンドを広く日本に知らしめたバンドでもある。
「ちょうど今年でリリース25周年になるんですよ。今や彼らは世界で活躍する存在ですけど、その原点であるこのアルバムを音楽的に評価したくて。メタルファンの人にも“久しぶりにこのアルバム、聴いてみない?”って薦めたいですし」
メタル系バンドのインタビューなどでおなじみの音楽ライター・増田勇一氏、メタル雑誌『BURRN!』編集部の奥野高久氏、このアルバムのライナーノーツを担当したGLIND HOUSE代表の有島博志氏らメタル〜ラウドミュージック界の識者がこぞって参加し、このアルバムが音楽シーンに与えた影響などを再検証・再評価しているのもかなり読み応えがある。全編鋼鉄(カタい)な内容かと思いきや、初期Xの完コス&完コピバンド“X-HIROSHIMA”の話題も盛り込まれていたりと、微妙に肩の力が抜けるポイントもあったりするのだが……。
そしてムックの中で梅沢さんが「ぜひ読んでほしい!」と語っていたのが、冒頭にも挙げた“プロインタビュアー”吉田豪氏によるデーモン閣下のインタビュー。
「メタルを知らない人でも閣下のことは知っているじゃないですか。日本の音楽シーンで世間とメタルをつないでくれた功労者ではあるんですけど、反面メタルファンからはブーイングがあったり、矢面に立たされていた存在でもあったと思うんです。デビュー当時にはアルバム『聖飢魔II〜悪魔が来たりてへヴィメタる』がBURRN!誌のレビューで0点の評価を付けられるっていう“事件”があったんですけど、吉田豪さんはそのことにもツッコんでいて、閣下も当時の思いなんかを赤裸々に語ってくれています。ボリューム満点のインタビューで、多分2万字くらいありますよ」
吉田氏はテリー伊藤氏のインタビューも担当しているのだが、なぜ一見メタルには無縁そうな彼がここで登場したのか、察しのいい人ならお気づきかもしれない。彼が名物ディレクターとして名を馳せた番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(1985〜1996年に日テレ系で放送)では、インディーズ時代のXが寝ている人を爆音のプレイで起こす“早朝ヘビメタ”や、ステージ衣装で参加する“ヘビメタ運動会”などの名物企画で暴れまくり! Xを発掘し、世間に紹介した張本人なのだ。
「当時のメタルファンからは“メタルで遊ぶな!”なんて批判もあったんですけど、こういう、メタルをエンターテインメントにするっていうセンスはやっぱりスゴいと思いますし、いま振り返ると早すぎたのかな?って。でもテリーさん、快くインタビューを受けてくださったんですけど、当時のことをほとんど覚えてなかったという(笑)」
ほかにもアイドル評論などで知られるかたわら、芸能界きってのカーカス(UKのデスメタル・バンド)愛好家である掟ポルシェ氏が10ページにわたってカーカスだけを語りつくす特集や、『POWER ROCK TODAY』(bayfm)などのナビゲーターであり、“日本メタル界の生き字引”こと伊藤政則氏の還暦を記念したロングインタビューなど、本を絞ったら汁(?)が出てきそうなくらい、とにかく内容が濃厚。
「いまは本屋を見渡しても、スマートでおしゃれな音楽雑誌ばかり。おもしろいなと思うものが1つもないんですよ。もっと自由で濃くて、楽しんで読んでもらえる本を作りたかった」と語っていた梅沢さん。特集の合間にはバンギャルをテーマにしたマンガ『バンギャルちゃんの日常』などで人気を博した蟹めんま氏らによるマンガやコラムも盛り込まれ、全体的にはメタラー向けの企画が多いが、読み物としてもかなり興味深いムックになっている。現在の音楽シーンや音楽ジャーナリズムにナナメ上から斬り込んだ『ヘドバン』の心意気に敬意を表して、筆者も1冊、いや2〜3冊買います!
(古知屋ジュン)
バンドメンバー全員のヘドバンがそろっているととても壮観。……といった基礎知識はさておき、そのヘドバンの名称をそのまま冠したムック『ヘドバン』が7月4日に発売された。
バブル全盛だった80年代後半〜90年代初頭にはメタリカなど、数多くのメタルバンドがヒットチャートを賑わせた。しかし2013年上半期のチャートを見る限りでは、ベスト10にランクインしているメタルやラウド系バンドのアルバムは、大御所バンドのブラック・サバスの『13』など5作ほどしかない。さらに音楽不況のあおりで音楽雑誌もバタバタと休刊しているいま、なぜ“ヘドバン”なのか? しかも「美少女アイドルの60ページ近い大特集があるらしい」「“プロインタビュアー”の吉田豪がデーモン閣下を直撃したらしい」「なぜかテリー伊藤のインタビューが入ってるらしい」などの情報が錯綜していて気になりすぎるので、編集者の梅沢直幸さんに話を聞いてみることに。
実はこのムックの誕生には、アイドルユニット・さくら学院の派生ユニットであるBABYMETALが深くかかわっているという。メタルの重低音サウンドと透明感のあるボーカルの組み合わせにキレッキレのダンスが、国内はもとより海外でも高く評価されている平均年齢14.3歳の3人組。最新シングルの『メギツネ』は、オリコンウィークリーチャートで7位という好セールスを叩き出している。
「昨年7月に目黒の鹿鳴館(メタルやV系バンドの聖地的ライブハウス)で彼女たちのライブがあったんですけど、ステージの真ん中に棺桶を置いてみたり、かわいい女の子達なのにMCが一切なかったりして、かなりインパクトがあったんですよ。メタルには詳しくないはずの彼女たちのなりきりぶりに驚いたし、メタルをよくわかっているスタッフが仕掛けるさまざまな演出も含めて、カルチャーショックを受けました。これだけメタルを楽しく、おもしろいエンタテインメントとして見せてくれるBABYMETALを、きっとメタル系の雑誌では取り上げないだろうし、アイドル誌ではロックファンやメタラーにアピールできない。このおもしろさを、メタルをわかっている人間がきちんと伝えなければと思ったんです」
60ページにおよぶ特集には本人たちによる楽曲解説のほか、彼女たちの音楽の背景にある30枚のメタルアルバムの紹介、プロデューサーのKOBAMETAL氏や振り付け師のMIKIKOMETAL氏(Perfumeらの振り付けも担当)らのインタビューなど、wikipediaもビックリのディープなBABYMETAL情報がギッシリ詰まっている。
その後には、X(現X JAPAN)が1988年にリリースしたインディーズ時代の伝説的なアルバム『VANISHING VISION』の特集が続く。V系バンドの元祖といわれるX JAPANだが、メタルのジャンルの中でも特にテンポの速い“スラッシュ・メタル”をベースにした、激しくドラマティックなサウンドを広く日本に知らしめたバンドでもある。
「ちょうど今年でリリース25周年になるんですよ。今や彼らは世界で活躍する存在ですけど、その原点であるこのアルバムを音楽的に評価したくて。メタルファンの人にも“久しぶりにこのアルバム、聴いてみない?”って薦めたいですし」
メタル系バンドのインタビューなどでおなじみの音楽ライター・増田勇一氏、メタル雑誌『BURRN!』編集部の奥野高久氏、このアルバムのライナーノーツを担当したGLIND HOUSE代表の有島博志氏らメタル〜ラウドミュージック界の識者がこぞって参加し、このアルバムが音楽シーンに与えた影響などを再検証・再評価しているのもかなり読み応えがある。全編鋼鉄(カタい)な内容かと思いきや、初期Xの完コス&完コピバンド“X-HIROSHIMA”の話題も盛り込まれていたりと、微妙に肩の力が抜けるポイントもあったりするのだが……。
そしてムックの中で梅沢さんが「ぜひ読んでほしい!」と語っていたのが、冒頭にも挙げた“プロインタビュアー”吉田豪氏によるデーモン閣下のインタビュー。
「メタルを知らない人でも閣下のことは知っているじゃないですか。日本の音楽シーンで世間とメタルをつないでくれた功労者ではあるんですけど、反面メタルファンからはブーイングがあったり、矢面に立たされていた存在でもあったと思うんです。デビュー当時にはアルバム『聖飢魔II〜悪魔が来たりてへヴィメタる』がBURRN!誌のレビューで0点の評価を付けられるっていう“事件”があったんですけど、吉田豪さんはそのことにもツッコんでいて、閣下も当時の思いなんかを赤裸々に語ってくれています。ボリューム満点のインタビューで、多分2万字くらいありますよ」
吉田氏はテリー伊藤氏のインタビューも担当しているのだが、なぜ一見メタルには無縁そうな彼がここで登場したのか、察しのいい人ならお気づきかもしれない。彼が名物ディレクターとして名を馳せた番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(1985〜1996年に日テレ系で放送)では、インディーズ時代のXが寝ている人を爆音のプレイで起こす“早朝ヘビメタ”や、ステージ衣装で参加する“ヘビメタ運動会”などの名物企画で暴れまくり! Xを発掘し、世間に紹介した張本人なのだ。
「当時のメタルファンからは“メタルで遊ぶな!”なんて批判もあったんですけど、こういう、メタルをエンターテインメントにするっていうセンスはやっぱりスゴいと思いますし、いま振り返ると早すぎたのかな?って。でもテリーさん、快くインタビューを受けてくださったんですけど、当時のことをほとんど覚えてなかったという(笑)」
ほかにもアイドル評論などで知られるかたわら、芸能界きってのカーカス(UKのデスメタル・バンド)愛好家である掟ポルシェ氏が10ページにわたってカーカスだけを語りつくす特集や、『POWER ROCK TODAY』(bayfm)などのナビゲーターであり、“日本メタル界の生き字引”こと伊藤政則氏の還暦を記念したロングインタビューなど、本を絞ったら汁(?)が出てきそうなくらい、とにかく内容が濃厚。
「いまは本屋を見渡しても、スマートでおしゃれな音楽雑誌ばかり。おもしろいなと思うものが1つもないんですよ。もっと自由で濃くて、楽しんで読んでもらえる本を作りたかった」と語っていた梅沢さん。特集の合間にはバンギャルをテーマにしたマンガ『バンギャルちゃんの日常』などで人気を博した蟹めんま氏らによるマンガやコラムも盛り込まれ、全体的にはメタラー向けの企画が多いが、読み物としてもかなり興味深いムックになっている。現在の音楽シーンや音楽ジャーナリズムにナナメ上から斬り込んだ『ヘドバン』の心意気に敬意を表して、筆者も1冊、いや2〜3冊買います!
(古知屋ジュン)
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