著者はそんな私とは正反対。自ら“ゆううつ部部長”と名乗り、実際に現在も、うつ闘病中の東藤泰宏さんという男性。東藤さんは、IT企業で働いていたときに過労でうつ病に。ニート時代を経てブログ「ゆううつ部」を開設。2011年にスカイライト社主催の『起業チャレンジ2011』で最優秀賞を受賞し、賞金300万円で起業。2012年から、うつ病の予防と回復、再発防止をサポートするサイト「U2plus」を公開している。
本書は東藤さんが、うつ病から回復した人たち=うつ病のOBたち9人に話を聞いてまとめたインタビュー集だ。
本書に登場する9人の職業や年齢などは様々。たとえば、月に400時間ものオーバーワークと会社での孤立感から、うつ病になった30代の男性。当時18才の高校生で、受験をきっかけにパニック障害から、うつ病になった女性。姑の介護に追われ、うつ病になった50代の女性。ガングロギャルだった19才のとき、バイトが続かずニートになり、うつ病になった女性。
正直、うつ病についてまったく無知だった私にとって、本書に書いてあることは驚きの連続だった。まず、うつ病は単純に、精神的な病だとばかり思っていたのだが、体調もかなり悪くなるということに驚いた。めまいや吐き気を起こしたり、寝たきりが続いたり、逆に不眠もよくあるとか。また、理由もなく涙がよく出てしまう、お風呂やシャワーをするのさえ辛くなる、といった症状も。自分では経験のないことなので、本当にただただ驚いた。と同時に、ポジティ部の自分でも、絶対にならないとは言えないのだ、ということも感じた。
それにしても、著者もうつ闘病中で、本を作るのはさぞかし大変だったことだろう。本書についていろいろ聞きたくなり、発行元のポプラ社で編集を担当した小林夏子さんに話を聞いた。
まず、この企画が始まったのは、東藤さんのメールがきっかけだったそう。
「メールで東藤さんが企画を持ち込んでくださったんです。
東藤さんと一緒に何人かの取材に同行したという小林さん。うつ病OBのみなさんに会って感じた共通点はあったのだろうか。
「みなさん、もともと活動的な方が多く、頭の回転が早くて会話がスムーズな印象でした。それに笑顔が印象的で、語り口なども優しい方ばかり。そんな方々なので、『本当にうつ病だったの?』とびっくりして、誰にでも起こりうることなんだと実感しました。それに、もうひとつ驚いたのは、お話をうかがっていると明らかに“異常”な日々を過ごしていらっしゃるのに、本当に動けなくなるまで自分が異常だと思っていない、ということです。みなさん、『当時はそれが普通、当たり前だと思っていた』『病院に行こうなんて考えもしなかった』とおっしゃっていて」
うつ病は誰にでも起こりうる病。それは私も本書を読んで強く感じた。そして、“動けなくなるまで異常と思わない”という話にも納得。そのことを物語る、こんなエピソードも。男性があるとき会社で夜食を食べようとしたら、急にカップラーメンの作り方がわからなくなり、涙がとまらなくなったというのだ。
小林さんはこの企画に携わり、うつ病に対する考え方も変わっていったそう。
「もともと心理学に興味はありましたが、教科書や本を読んで学ぶのと、実際に生の声を聞くのはやはり全然違うものだなと。うつ病になる原因もよくなるきっかけも、本当に人それぞれ。立ち直る道のりも一本道ではなくて、だからこそ難しさもあるのですが、ひとつやってみてうまくいかなくても、全然絶望なんかしなくていいんだ、と思えたのは大きいです」
今回、実際にうつ病を患う読者からは「こういう声を探していた」「読んでいて励まされました」との感想が届いたり、うつ病ではない読者からは「うつの人って、こういう感じなんだなってよくわかった」といった反応があったそう。
本書には9人のOBたちから、うつ病から立ち直るための具体的なアドバイスも書かれているので、うつ病を患っている人たちの励みになることは間違いない。
私自身はずっとポジティ部でいたいけれど、うつ病の実態、症状を理解し、誰にでも起こりえること、と思えたのは、とても意味のあることだった。自分だけでなく、家族や恋人、友人がうつ病になる可能性だって十分にあるわけだし。
うつ病についてまったく知らない人、自分はなるはずない、と思っている人にも是非、読んでみてほしい。
(田辺香)