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芥川賞受賞作『爪と目』は正統派のホラー小説である

       
先般、エキサイトレビューでは杉江松恋さんが恒例・芥川賞直木賞予想で、みごと藤野可織『爪と目』(《新潮》2013年4月号)の芥川賞受賞を的中させた。
今回、その作品を含む同題の作品集(新潮社)も出たので、読もうかどうしようか迷っている人向けに、この小説家の3冊の作品集をご紹介申し上げたい。

まずは最新刊『爪と目』。芥川賞を受賞した表題作はつぎの一文で始まる。

〈はじめてあなたと関係を持った日、帰り際に父は「きみとは結婚できない」と言った〉。

地の文で二人称の呼びかけ。書簡体小説か? それともいわゆる「二人称小説」か?
読んでいくとわかるが、その両方の要素を持っていて、でもそのどちらでもない。〈はじめてあなたと関係を持った〉とある以上、〈父〉は〈あなた〉のではなく語り手(兼登場人物)の父である。
つまりこの小説は最初の一文を読んだだけで、語り手が自分の実父の愛人であった人物に語りかけている、ということがわかる。たった一文、しかもこの短い文でこれだけの情報を与えられるのだ。
ただならぬ語りの状況である。読者としては「おっ」と身構えてしまう。こういうふうに最初にカスタマイズされてしまった読者は、この緊張感がどこに向かっているのか、つねに気にしながら読んでいくしかない。
『爪と目』は読者をこのように追いこむことによって始まるのだが、それはつまり読者の目にはある種の予告ホームランのようなものとして映る。
ということはこれ、作者自身もべつの意味で退路を断って書いているわけで、このあたりの度胸、肚の据わりっぷりは特筆に価する。

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