さやわか、村上裕一、坂上秋成の三人による『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』座談会。もちろん後編もネタバレだらけなので要注意!
■お前にとってほむらってなんなの?
坂上 まどかが世界を改変してから、作中で何年経ってるの? 一年くらいに見えるんだけど! 「まどかがいなくても強く生きていくって決めたけど、私の心はもう限界。
村上 ほむらは「自分だけ精神と時の部屋」なので、彼女の一年は百年くらいなんじゃないですか?
坂上 それはありえる。自分の脳内も無意識に時間操作してて、一ヶ月しか経ってないのに「まどかがいなくなってもう十年……」みたいな!
さやわか あーあーあー、『スローターハウス5』みたいな感じですね。ほむらにとっての主観時間が長いので、ヘンに老いてしまったというか、すっかり絶望してしまった。
村上 いやー、僕、ほむほむって完璧なやつじゃないと思うんですよ。
坂上 それぞれのほむら像ってすごく大事だと思う。お前にとってほむらってなんなの!? なんかさー、変身シーンでほむらだけしょぼくない? おどおどしてるし。
さやわか おどおどしてるキャラだからじゃないですか?……いや、それはほむら観の違いかー。
坂上 杏子ちゃんとかさやかはすごくうまく作られてた。テレビ版のキャラクター像をちゃんと引き継いでた。さやかは今回めちゃくちゃ活躍してるし、「みんな、待たせたな!」ってかっこよく言うけど、しょせんカバン持ち。
さやわか でもそういうところがかわいかった!
坂上 しょせん「あたしって、ほんとバカ」感もちゃんと生きてる。
さやわか 『叛逆』のラストシーンは、テレビシリーズの「大人になるのはイヤだけど、女になってしまう」ってさやか像も若干受け継いでる。「女性性」の問題としてまとまっていたテレビシリーズに対して、『叛逆』はスポイルされてると思ってたけど、さやか辺りには残ってますね。
村上 「私はもっと大きなものの一部だったはずなのに…」って、さやかここまでメンヘラじゃなかったよね?
さやわか まどかの一部になって、「最強母性」のエネルギーをもらって安定してたのに、切り離されて急にオドオドしてる。
村上 兄貴に切られたヤクザの子分みたい。なさけないやつですねー。
さやわか 単なる「女性」から解放されて女神の一部になったのに、切り離されて大きな使命を忘れて、「地に堕とされた女」になって日常生活を送り始めてしまう。仁美と上条の付き合いも、バックにまどかがいれば余裕だった。
坂上 組長まどかにくっついてればそのうちもっといい男に出会えるからヨユー!みたいな。
村上 仁美も病んじゃったから、上条巨悪説ってあるよね。あいつが悪い。
坂上 男を好きになったらあの世界では終わる!
さやわか ラスボスはキュゥべえじゃなくて上条!
■首切断と虚淵玄
坂上 仁美が首だけの状態になるじゃん? 虚淵さん、そこまでして首だけになった何かを描きたいんだ! あの人たぶん、首と胴体がつながってるほうが違和感があるんだよ!
村上 ほむほむの魔女化も、顎でスパーンって切断してるじゃん。シャフトのスタッフが「いや~虚淵さん、首チョンパには飽き飽きでしょうから、新趣向を凝らしてみました!」って切ったのかな?
坂上 でもさ、「くっついてるべきものを切り離す」っていうのは、虚淵さんの作品では重要なんじゃないかな。
村上 人間のまどかが子供で、概念のまどかが母親で、臍の緒でつながってるって話でしょ? だけど「私は子供を産む気ないから」ってほむほむが言うんだ。
坂上 しかしそのときに性欲はどうするんだろう。
村上 性欲っ!?
坂上 いや、これはまじめな話で。『鬼哭街』の死んだ妹は、お兄ちゃんが好きで好きで、近親相姦したくてたまらないので、実はいろんなことを企んでいるヤツなんですよ。今回、あまりにもまどかが母性とか友情の象徴として機能してるでしょ? でも、ほむほむが見せてる顔って、明らかに性欲を持った人の顔ですよね。これ虚淵さんが美少女ゲームで作ってたら18禁でしょ。
■村上「俺はエロゲの話がしたい」
坂上 お茶会のシーンは、星空めておさんの『Forest』っぽさがある。
さやわか 「ファンディスクってなによ?」っていう問いかけをしている作品だよね。作中のキャラクターはこの世界がファンディスクで、楽しい世界が終わってしまうことに気づく。『叛逆』ってまさにそう。みんなが楽しめる空間は実は虚構で、現実に出ていかなきゃいけない。
坂上 『hollow』では、「虚構はよくない、前に進もう」と現実に帰った。でも『叛逆』はほむほむが更なる虚構を生み出して停止した。ほむらの能力は時間停止だから、「現状維持」は彼女の性質や無意識の欲望にいちばん近いんだろうな。
さやわか 「現実に帰ろう」って話は、いままでにけっこうある。『叛逆』はそこからもう一歩踏み出してる。
村上 ほむらの世界改変は『仮面ライダー龍騎』っぽい。本来なら存在しない人を存在させるための世界改変。
坂上 でもさー、世界改変ってふつう一回しかやらないよね。、『マブラヴ オルタネイティヴ』でもハッピーエンドにするために……あれがハッピーエンドとは思えないんだけど……改変するけど、一回じゃん?
さやわか 僕も「ずるい!」と思ったけど、テレビシリーズで「世界は改変可能だ」って明らかになったんだから、参照しながらもう一回同じことができるんだよ。ほむらが悪魔になるのはまどかが神になった反復だし。『エヴァ』の新劇場版も『Air/まごころを、君に』を映像的に参照して作ってるけど、まどかはちょっと参照の仕方がちがうよね。キュゥべえがなぜかシャフ度をやったりして、みんなが持っている「まどか☆マギカ」らしさを演出している。
村上 参照のしかたがちょっとズレてる。杏子がシャフ度やってたけど、あれ角度キツすぎじゃないですか?
(シャフ度を実演してみる三人。きつそう)
■めんどくせー女、暁美ほむら
坂上 日常的萌え4コマを「性を感じさせない絵」で描く蒼樹うめと、エロゲーを代表してきた虚淵玄が組んでる。
村上 振り向いてほしいし、手に入れたい。
さやわか 最後に要するに「私を愛してくれるのか」「愛してるって言ってくれなきゃ殺す」的なこと言って終わるわけじゃないですか。「何言ってんの?」みたいな顔されてたけど。
坂上 戸川純だ! ラストの「秩序か欲望か」っていう質問に、「欲望のほうを優先する」って答えてくれたら、「よかった、完璧だわ!」。
村上 でもさあ、「欲望だよ」とかって言ったらさ、それはほむらが欲したまどかじゃなくなるよね。
坂上 そこがポイント。あそこでまどかが欲望を選んだら、「私の知ってるまどかじゃない……!」とか言い出す。
さやわか めんどくせー女!!
■ほむら=キュゥべえ=???
坂上 百合ってむずかしいよね。
さやわか 公式はそういうものを排除してるけど、みんなで補完するって感じじゃないですか。今回、さやかと杏子が手つないで、なんか切ない顔する。「えっ、公式でこんなことするの!?」って思った。
坂上 でも、あそこに明確な線引きを感じた。「ここまでですよ!」って。
さやわか そこでセックスすればいいってこと?
坂上 ほむらがまどかのことを考えてオナニーしてないって判明したらすごくつまんなくなるわけ。ほむらがまどかに向けてる欲望から性欲を取り外すとうさんくさくなる。でもセーブはされてるよね。
さやわか ほむらは受肉した人間みたいなもの。でも、あの世界の登場人物はみんなキャラクター。つまり、受肉した人間であるほむらが、キャラクターであるまどかに「愛してくれ」って言ってるんだから、……叶わないんじゃないですか。
坂上 あっ、今気づいた。ほむらとキュゥべえって、「まどかを支配したい」欲望が一緒なのか。
村上 キュゥべえって電マに似てるな。
坂上 !? ぜんっっぜんわかんねぇ! ゲスい!
さやわか 今の話に関係あんの!?
村上 あるある。まどかを支配したいという欲望は男性的なんだが、『まどか』の世界では男性主体が排除されてる。キュゥべえは無性的。無性的→機械的→機械→電マ! ほむらは「そんなオモチャにとられてたまるか!」。
坂上 「そんなオモチャより私の方がよくない?」って話か!
さやわか 下品だなー、びっくりした! サイテー!
坂上 村上はカスだけど話はわかった!
三人のうち、誰と意見が一番近かっただろうか?(私は坂上の意見に頷きどおしだった)終わったあとに誰かと語り合いたくなる映画、『叛逆の物語』。自分で語るのも楽しいが、人の語りを聞くのも楽しい。『叛逆』が賛否両論を生むなら、みんな語るしかないじゃない!
(青柳美帆子)
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