日本最古の芝居小屋――。そういわれて、ピンとくる人はかなりの芝居ファンかも?

秋田県鹿角郡小坂町にある「康楽館」(こうらくかん)。
正確には和洋折衷造りの木造建築として日本最古。国の重要文化財にも指定されている。

明治43年(1910年)に誕生し、いまなお現役。これまでには市川團十郎さんや松本幸四郎さん、中村吉右衛門さんなど、そうそうたる役者たちが舞台を飾ってきた。東京や大阪などの都会ならいざしらず、人口約5,800人の小さな田舎町でこれだけ豪華なメンバーの舞台が見られるというのは、ちょっとスゴイことだ。

もともと小坂は鉱山で栄えた町。
康楽館も鉱山労働者のための娯楽の場として生まれたものだった。カラーテレビが普及した昭和45年以降、しばらく使われない時期もあったが、昭和61年(1986年)に地元の人たちの手で再びよみがえり、いまやその歴史は100年以上になる。

一体どんなところなのか? 実際に芝居を観に行ってきた。

訪れたのは12月。車で田舎道を走っていると、突然、周りの雰囲気が一変。約100本のカラフルな幟(のぼり)が舞う通りに出た。
美しいレンガの歩道やレトロモダンな建造物が目を引き、ハイカラなムードが漂う。聞けば「明治百年通り」というそうだ。

お目当ての「康楽館」もこの通り沿い。白い華麗な下見板張りの外観。ザ・洋風なテイストはいかにも明治時代らしく、なんだか当時にタイムスリップした気分に! ワクワクしながら中に入ると、館内は意外にも純和風な造り。そのギャップに驚いていると、
「この時代は和洋折衷の作りが当たり前でした。
初代の歌舞伎座も和洋折衷だったんですよ」
そう教えてくれたのは館長の高橋竹見さん。桟敷席に2本の花道があるのは、典型的な江戸時代の芝居小屋スタイル。天然の秋田杉を使い、当時の最先端の技術で造られているという。

とりあえず席につき、幕の内弁当を食べながら公演を待つことに。ちなみに幕の内弁当とは、芝居の幕間、つまり幕の内に観客が食べたのがネーミングの由来。まさに、うってつけのシチュエーションだ。
お茶は昔懐かしいポリ容器入り。弁当は3日前までの予約制だ。

この日の興行は大衆演劇だった。劇団「要」(かなめ)の常打芝居と舞踏ショー。私自身、大衆演劇が初体験だったが、誰でも楽しめるわかりやすいストーリーやノリで、そのおもしろさに開眼。このほかにも歌舞伎・寄席・文楽など、年間約200日は興行がおこなわれているという。


舞台前後には施設見学ができ、こちらも人気を集めている。舞台装置はどれも昔ながらの人力で、非常にエコ! たとえば花道に役者をせり上げるには「切穴」(すっぽん)と呼ばれるロープと滑車を使った装置を2人で操作しているし、舞台中央の「回り舞台」は床下で4人の人力で回している。ちなみに回り舞台は直径9.73メートルで日本最大級。重さは約2トンもある。

康楽館の歴史をもっとも感じるのが、現在も使われている楽屋だろう。ここには、これまで舞台を踏んだ役者たちの落書きがそのまま残っている。
上演中でなければ楽屋を見ることもできる。おそらく知っている人の名前を見つけられるのではないだろうか。12~3月(※今冬は1~3月)の間は、舞台は休演だが施設見学は可能。実際に回り舞台を回せたり、時代劇衣装に扮しての写真撮影なども楽しめるので、館内を満喫したい人にはこの時期もおすすめだ。

さらに康楽館の隣には、こちらも国の重要文化財の「小坂鉱山事務所」がある。ルネッサンス風で、細部までこだわった造りの美しい洋館は、当時のこのエリアの繁栄を偲ばせる。ぜひ、あわせて見学してほしい。

遠方から訪れる人も多い「康楽館」。芝居好きならずとも楽しめる、ユニークな観光スポットだ。