先日、大学入試センター試験が行われ、理科分野においては「物理」の受験者が「化学」「生物」に次いで多い160,795人だったこと、平均点は60点オーバーと化学に次いで二番目に高かったことが発表された。これってちょっと驚きじゃないだろうか。

と言うのも、物理って、まれに100点をとる人がいる一方で、平均点40点なんてのもザラだったから。

昔からセンター試験では、平均点が60点前後だったようだし、学校・先生によって違いはあるだろうが、物理ほど点差が開く科目も他にないと思っていた。また、物理で100点をとるタイプの人は、何も勉強しないでとれる一方で、古典や英語、歴史は0点なんてケースもあった。
そして、大人になっても「結局、高校物理って何だったんだろう」と思うことがある。

そんな疑問を、『大人のための高校物理復習帳』(講談社ブルーバックス)、『ぶつりの1、2、3』(ソフトバンククリエイティブ)等、

多数の著書を持つ、共立女子中学高等学校教諭の桑子研先生に聞いたところ、物理の知識を使った特別授業を見学させてもらうことになった。

これは、進学が決まっている文系女子生徒48名を対象に、物理、国語、地理の先生3人が共同運営する特別教養講座。
「ワールド・カフェ」というグループワークのスタイルで、「ストロー10本とセロテープを使い、2メートルの高さから卵を落として割れないようにする」という課題にグループで取り組むという。

まず「声を出さず、ジェスチャーで」誕生日順に並び、4人ずつのグループを作ることからスタートし、これは1分10秒でクリア。そこから、4人1組でグループが作られて、司会となるホストが決められ、一人1分ずつ自己紹介→グループごとに話し合い(20分)→グループ移動をして話し合い(20分)→元のグループに戻って気づきの共有・作成(20分)→全体で挑戦・アイディアの統合(20分)と進められていった。
女子高生たちが、ストローを曲げてみたり、切ってみたり、つないでみたり、設計図を模造紙に書いてみたりする顔は真剣そのもの。
「カゴ状」「クモの糸みたいに」「パンツみたい」と、いかに衝撃を吸収させるか考え、卵の落下を受け止める「受け皿」を工夫するイメージが次々に出される一方で、2メートル上から落とした場合、思い通りの場所に落ちない可能性も考え、卵の周りに直接ストローを巻きつける案も出てきた。
最終的には多くが「卵そのものをストローで武装する」スタイルに落ち着き、実験の結果、割れずに成功したのは2つのグループだった。


ところで、実験結果そのものよりも、驚いたのは、女子高生たちの取り組み方だった。

正直、女の子が4人も集まれば、関係ないおしゃべりが始まったり、誰かが仕切り、何もしない子が出てきたりしそうなものなのに、全員が「参加」し、きちんと「考えて」いた。「物理は苦手」と自己紹介で話していた子たちも、自分の意見をきちんと出していた。
実は「4人」という数字が絶妙だそうで、さらに、テーブルごとに置いてあるオモチャのマイクを使うというルールにより、「マイクを持つことで話し手、聞き手の役割分担が自然にできる」という効果があるそうだ。

また、テーブルに置かれた模造紙やカラーペン、付せんにも、「創造性を刺激され、様々なことを書き始める」「自分用のメモ」などの意味があり、テーブルに置かれたお菓子や飲み物、お花にも「リラックスして話しやすい環境づくり」という心理的効果があると言う。
「実験で使うのは、身近なモノばかり」ということ、「卵を割らないようにする」という明確な目的を持つことで、文系女子も夢中になって物理的な発想を駆使して、実験に取り組めるようだ。


自分もこんな風に、身近なモノと結び付けて考えられたなら、物理がもう少し好きになっていたのかも?
でも、自分の頭にあるのは、やっぱり「試験前に暗記した公式」ばかり。そこがどうやって結びつくのだろうか。後編で、桑子研先生に質問を直接ぶつけてみたい。(田幸和歌子)