日本でおなじみの味を求めて、ソウルにいる筆者もオープンするなり訪れたのだが、分厚いとんかつの柔らかな肉質や、サクサクとした揚げ具合に、これは日本と同じ味だと驚いた。これだけ本格的なのに、かつ丼5900ウォン(約590円)、ロースかつ定食7000ウォン(約700円)と、韓国における庶民的な定食と大差ない、良心的な価格設定となっているのもすごい。
とはいえ、韓国では既に、韓国式トンカツ(現地の発音ではトンカス)が庶民の食として定着しており、さらに近年は、とんかつやかつ丼、ラーメン、お好み焼きなど、日本の味をそのまま提供する日本食レストランが数多く進出し、現地の人にもお馴染みとなっている。
やっとソウルにやって来たかつやのとんかつは、韓国の人にどのように受け入れられている? 鍾路店のチャン店長にお話をうかがった。
韓国のかつやのこだわりについて、「日本と同じスペックで提供しています」とチャン店長。肉質を保つため、冷凍しない豚肉を新鮮なうちに使用し、ソース、たれ、カレーなどは日本から直輸入。調理レシピも日本からスーパーバイザーを呼んで確立させ、サクサクとした食感の決め手となるパン粉まで、日本と同じ方法で作っている。
またこれまでも、韓国式ではない「日本式とんかつ」を提供する現地企業や日本企業が韓国に進出済みだが、そうしたお店は一般的に単価が高い。一方はかつやは、ファーストフード的なお手ごろ価格で日本のとんかつ・かつ丼を提供し、差別化を図る。
肉厚でジューシーなとんかつに、最初は「ちゃんと火が通っていないのでは」と問い合わせる現地のお客も少なくかったという。「韓国では焼肉をカリカリになるまで焼く習慣があるんですよ。もちろん説明すれば納得してくれます」と店長。
また、脂身が残る高級なロース肉を使用しているのだが、この脂身に馴染めない韓国人のお客も最初はいたとか。
韓国で昔から一般的に食べられている韓国式トンカツは、豚肉に衣をつけて揚げた料理という面では同じだが、日本のとんかつより薄く平たいのが特徴。叩いてのばした豚肉を使用し、脂身の入った肉は使わない。高級料理ではなく、定食屋のお手ごろメニューというイメージがある。
ソースも日本のとんかつソースとは異なり、デミグラスソースのようなものが多い。とんかつにカラシをつける文化は韓国にないが、かつやでこの組み合わせを知ってカラシを求めるようになったお客さんもいる。
また、韓国の定食屋では普通に行われている、おかずや味噌汁のお代わりを求める方が多かったそう。そこで鍾路店では、キャベツやごはんなどに関し、お代わりに対応するサービスも行っている。また、食卓には必ずキムチがあるという韓国のこと、キムチを求めるお客も多く、求められれば提供するのだとか。日本のかつやにはない光景だ。
キムチといえば、鍾路店では「チゲかつ鍋」というメニューも提供している。キムチチゲにとんかつが入っている料理だが、こちら、韓国に出店を機会に開発したメニューであり、日本のかつやでも季節限定で発売したことがある(なお、香港店では販売中)。
客層は、会社が多い立地もあり、会社員が8割以上。「リピート率が高く、手ごたえを感じています」と店長は話す。
かつやは年内にも、韓国国内に2店舗を増やすことを目標としているそう。さらに香港、韓国だけでなく、タイを始めとしたアジア圏やアメリカにも出店する計画があるという。
日本を代表する味のひとつとして、これから世界に認識されるだろう、かつやの今後の活躍を見守りたい。
(清水2000)