現在実写版「パトレイバー」第二章が放映中です。
THE NEXT GENERATION パトレイバー
メインビジュアルのロボット、格好いいでしょう?
でもね、全然動かないから。

知らない人なら肩透かし。
知ってるファンなら「やっぱりね」。

「機動警察パトレイバー」は、初期OVAとゆうきまさみの漫画版が、1988年にはじまったメディアミックスプロジェクト。
ゆうきまさみの漫画版は、ロボット工学は進歩すればこうなるかもしれない、という近未来(2000年。とっくに通り過ぎましたよ!)を描いた作品。
民間のレイバー(作業用ロボットの総称)犯罪。
警察のレイバーが起動して、治安を維持していきます。グリフォンなどの宿敵レイバーを相手に戦う、SFアクション作品でした。
一方、アニメ監督・押井守が関わっているTVアニメとOVA版は、半分はそのようなレイバーのアクションアニメになっています。半分はね。
じゃあ残りはというと、レイバー整備班や、特科車両二課の日常のドタバタ中心。やれ地下に白いワニが出ただの、やれ整備班の成人向け本処分だの、やれ出前が届かないだの。
レイバー一切出てこない回が山ほどあります。
ぼくが好きなのは新OVAの香貫花・クランシーVS熊耳武緒回ですね。おたけさん派です。
「すごく設定はリアル」「なのにロボットが動かない」。これがパトレイバーの魅力の一つです。

そして今回の実写劇場版。

エピソード0と1では「いかにレイバーが無用の長物なのか」を、整備班を中心に描いています。
あれから時も経ち、整備班はシバシゲオ(千葉繁)がリーダーになってまとめています。
二課のメンバーは3代目。アニメやマンガで登場していた初代は「泉野明(いずみ のあ)」がヒロインですが、実写版の三代目は「泉野明(いずみの あきら)」が主役。
元気いっぱいで見た目も性格も似ている。
ところが今回の明は、レイバー維持の金もかかるしパーツの変えも無いし整備の労力も大変すぎるので、全然乗せてもらえない。
訓練も当然できない。不況続きでレイバー犯罪すら起きない。だから待機中は携帯ゲーム機で格ゲーするばかり。
そりゃー……ロボットアクションなんてできるわけないでしょう。

第二章で上映されるのは、エピソード2と3。
2ではおえらいさんから「総点検で、警視総監の前で礼砲を発射せよ」と突然言われてあたふたする話。

そうです、今はガタが来ていて、立つことすらやばいのです。
あほか! ……でも実際見ると、でかくて重い鉄の巨人を二足で立たせるほうがアホなんですよ。細かいロボットSFウンチクを聞いていると「無理だわー」と苦笑いしてしまいます。現実のロボット工学的にも、歩かせるより立ち続ける方が難しいそうですよ。

3ではゲームオタクのヒロイン明が、ゲーセンで自信のある格闘ゲームで惨敗し、その勝てなかった相手のおっさん(竹中直人)と話す中で、「勝つための思想とはなんなのか」を考える話……警察であることすらも関係ありません。
でも明を演じる真野恵里菜が、怒りの中で格闘技を周囲に振るったり、ひたむきにゲームのため、なぜか光る汗を流して筋トレ訓練する様子が収められた映像は、意外に青春しているので見る価値あり。

どちらも、ファンならば「これはパトレイバー『っぽい』」と納得できるはず。

ん? 「パトレイバーっぽい」って、なんだろう?

押井「だってね、もう25年以上前になるわけですけど、そもそもこのパトレイバーという作品のスタート地点は、“二足歩行の巨大ロボットが活躍するなんてあり得ない”っていうのを裏テーマみたいにしてたんだから」
押井「だから今回の実写版は本当の意味での原点回帰なんだよ。二足歩行の巨大ロボットなんて、それぐらい使えないものなんだ、誰がこんなもん作ったんだ、ってところから話を始めようぜって」
鬼才・押井守総監督が明かすその裏側「今、なぜ実写でパトレイバーなのか?」 - エンタメ - ニュース|週プレNEWS
 
総監督の押井守は、実写でやった意義をここに見つけています。
実写で本当にでかいロボットがいたとしたら、そんなの町中を動かせるわけがなさそうに見える。戦えるわけがなさそうに見える。
「パシフィック・リム」の逆の思想で撮られた映像なので、実際に映画を見ていると「これ動かないわ−」と体感できてしまいます。

おかしな話です。動かないなら、じゃあそこに関わっている人ってなんなの?
おそらく、「レイバー」という巨大ロボをめぐり、ロマンと現実の狭間にはさまっちゃっている滑稽さこそが「パトレイバーっぽい」ものなのでしょう。
筧利夫が演じる後藤田隊長の飄々とした口調と、腹になにか企んでいる顔の胡散臭さは必見。

実は他にも、食べ物、警察のあり方、僻地感、メカフェティズムなど「パトレイバーっぽい」ものと、押井守総監督のセンスがびっちり詰め込まれています。「うる星やつら」などでお馴染みの「マッハ軒」とか出ますからね。
全部で7章(12話)まで上映で、今回が2章目。
第3章は7月12日から上映予定で、2015年には長編が公開されます。
オムニバスで、ノリは非常に今のところ軽い。「パトレイバー」の世界を覗き見ていくイベント的な内容なので、どこからでも安心して見られます。
くれぐれも「ロボットアクション映画を見に行くぜ!」とだけは思いませぬよう。そういうのじゃないから。いかにレイバーを動かさないか、考えるシリーズですから。

THE NEXT GENERATION パトレイバー/第1章 [Blu-ray]
THE NEXT GENERATION パトレイバー/第2章 [Blu-ray]


(たまごまご)