あさって、6月22日夜にいよいよ最終回を迎えるTBS・日曜劇場「ルーズヴェルト・ゲーム」。その最終話直前の第8話(6月15日放送)で、ちょっと印象深いシーンがあった。
それは青島製作所の株主の竹原(北村有起哉)などの要求で急遽行なわれた、臨時株主総会の終了直後の一場面だ。

総会の前半、社長の細川(唐沢寿明)や会長の青島(山崎努)ら経営陣の突き上げに躍起になっていた竹原だが、事前に口裏を合わせていたはずの専務の笹井(江口洋介)から土壇場で不意打ちを食らい、その思惑は完全に狂ってしまう。総会が終わったのち、すっかり消沈していた竹原に、「時間があれば飯でもどうですか」と声をかける者がいた。さっきまで彼が矛先を向けていた青島だ。このとき、株について何か考えがあるなら相談に乗れるかもしれないと青島は言うと、「外で食うのもいいが、うちの野球部の食堂で出すカレーうどんも悪くない。城戸社長も呼んであります」と竹原を大株主の城戸(ジュディ・オング)とともに連れ出すのだった。


カレーうどんは第3話にも出てきた。野球部の食堂に社長の細川が顔を出したとき、監督の大道(手塚とおる)がいままさに食べようとしていたものこそ、カレーうどんだった。この時点で細川は野球部にとって廃部を画策する敵役であり、大道は思わず彼相手に啖呵を切ってみせたのだが、そのあいだに麺は確実に伸びてしまったことだろう。

■カレーうどんに込められた意味
それにしても、なぜ野球部の食堂の名物がカレーうどんなのか? そのヒントは、ドラマに出てくる球場に隠されているように思う。このドラマで野球部の試合の撮影が行なわれたのは、愛知県にある豊橋市民球場。その所在地の豊橋市では近年、ご当地グルメとしてカレーうどんが売り出し中で、全国的にも認知されつつある。
その構造はちょっと変わっていて、どんぶりの上から順に“カレーうどん・とろろ・ごはん”の三層になっており、材料には自家製麺、豊橋名産のウズラ卵が使われている(「豊橋観光コンベンション協会:豊橋カレーうどん特集ページ1」)。

「ルーズヴェルト・ゲーム」では、豊橋市やその隣りの豊川市など愛知県の東三河地域がロケの主要な部分を担ってきた。監督を務める福沢克雄は、今春放送されたスペシャルドラマ「LEADERS」の撮影でもこの地域を訪れており、「第二のふるさと」とほれ込んだという(「中日新聞」2014年6月13日夕刊)。おそらく劇中のカレーうどんには、福沢監督はじめスタッフたちのロケ地への感謝の意が込められているに違いない。この6月7日には、豊橋市民球場で撮影とあわせて地元ファンへの感謝イベントも行なわれている。この日は、福沢監督や唐沢寿明・江口洋介・檀れいといった主要キャストに加え、愛知県知事の大村秀章も参加して大盛況だったようだ。


「ルーズヴェルト・ゲーム」にかぎらず、ここ最近、東三河では地元の観光団体などでつくるフィルムコミッション「ほの国東三河ロケ応援団」の協力のもと、ドラマや映画のロケが盛んに行なわれている。

昨年テレビ東京で放送された「みんな!エスパーだよ!」も、メイン監督を務めた園子温が豊川出身、制作プロダクションのプロデューサーが豊橋出身であることから、東三河で全面ロケが行なわれた。「ルーズヴェルト・ゲーム」の舞台はあくまで東京という設定だが、このドラマではセリフに三河弁が多用され、ときには豊橋駅前にあるパチンコ店屋上の宇宙船のオブジェがドラマの展開上効果的に使われるなど、あきらかにこの地域が舞台になっていた。そういえば、「ルーズヴェルト・ゲーム」で青島製作所野球部の応援団長的存在・長門を演じるマキタスポーツは、「みんな!エスパーだよ!」にも地元の喫茶店のマスター役で出演している。福沢監督同様、マキタもここ最近、東三河とは縁が深いのだ。

■“エキストラ参加”はテレビで見るのとはまた違ったドラマ体験だ!
さて、愛知県出身・在住の私だが、県西部の名古屋寄りの地域に住んでいるので、県の東の端に位置する豊橋にはなじみが薄かった。
ひょっとすると、まともに豊橋を訪れたのは、去年11月に開催された「豊橋まんが家まつり」に行ったのが初めてだったかもしれない。

そんな私が、この6月某日、約半年ぶりに豊橋を訪れた。JRと名鉄が共用する豊橋駅から向かった先は、豊橋市民球場。何を隠そう、「ルーズヴェルト・ゲーム」の収録にエキストラとして参加するためだ。

球場のある岩田運動公園までは路面電車(豊橋鉄道市内線)に乗る。路面電車のある街に悪い街はない、というのが私の持論だ。
採算が合わなかったり、自動車の運転に妨げになるとの理由から路面電車を廃止した街は多いが、そのなかにあって存続しているところに、いい意味での豊橋の頑固さを感じる。駅前からして高い建物がほとんどなく、商店街もそれなりに活気があるところも、古き良き地方都市の趣きを残しているといえる。

路面電車に揺られること約20分、球場にたどり着く。梅雨の中休みで、日差しは強いものの、湿度は低く風も適度に吹いているという、格好のロケ日和だった。球場ではこの日午前中より、最終回での青島製作所とイツワ電器との試合の撮影が日没近くまでずっと続いていた。スタンドでは私を含め観客役のエキストラたちが、スタッフによる場所指定のもと、席を埋めていく。
さすがに平日の昼間とあって、自分と同年代の30~40代の男性は少なく、中高年の夫婦や若い子連れの女性が目立った。入退場は自由だったので、時間が夕方に差しかかるうちに、学校帰りの中高生なども徐々に加わることになる。

テレビ番組の収録現場には、これまでにも何度か見学に行ったことがある。ただ、たいていの場合、最初のうちこそ楽しいものの、収録が何時間も続くとさすがに疲れてしまう。しかし今回はそんなことが一切なかった。単なる見学ではなく、エキストラとはいえそれなりに演技を求められ、こちらからも積極的に動いていたからだろう。

正直にいうと、エキストラ参加前は、どうせ球場の一観客としての参加なのだから、せいぜい枯れ木も山のにぎわいになればというぐらいの気持ちでいた。だが、いざ収録が始まると、スタッフからさまざまな指示を受け、気がつけば場面に合わせて表情をつくったり、身振りをしたりと演技している自分がいた。

撮影にハマってしまったのは、俳優たちの演技によるところも大きい。これはドラマを見ていてもわかることだが、グラウンドでは俳優たちが本気でボールを投げたりバットを振っている(前出の「中日新聞」の記事によれば、出演者にはオーディションで選ばれた元プロ選手もいるとか)。そんな俳優たちの姿を見ていれば、こちらもどうしたって演技に熱が入るし、ドラマの世界にのめり込んでしまう。

まあエキストラに参加すれば、どうしたってネタバレに遭遇してしまうので、いくらドラマ好きでも敬遠する人はいるだろう。私にもそんな懸念がなかったわけではない。だが、自分も俳優たちとドラマを共有しているという思いを味わえたのは、今回の何よりの収獲だった。それはテレビで見るのとはまた違ったドラマ体験だといえる。いまTBSはじめテレビ各局は随時、ドラマのエキストラを一般視聴者から募集している。せっかくだし、ドラマ好きの人は、一度でもいいからぜひエキストラに参加してみたらいいと思う。

ちなみに私は、最終回のなかでも一つの見せ場となりそうな場面を、出演者のわりと近くで見届けることができた。放送時には、はたして画面に自分が映りこんでいるかどうかドキドキしながら確認したい。
(近藤正高)