今放映されているアニメ『ペルソナ4ザ・ゴールデン』の思い切りはすごいね!
一応『ペルソナ4 THE ANIMATION』の続編であるのに、全く続編ではない作品じゃないか。

ペルソナ解説やキャラの登場や舞台設定等すべて「ゲーム、あるいはアニメで見て知っているでしょう?」と間口を最初から仕切り、「ここから見てもわかる」作品であることを完全に捨てました。

こうすることで『ペルソナ4』を知っている人のための作品に方向をシフト。
ファンにだけ通じるネタを、躊躇いなく放り込んだファンディスク的アニメになっています。

内容は、一応は『ペルソナ4』準拠で、PSvita版『ペルソナ4ザ・ゴールデン』で追加された部分だけアニメ化しています。
そもそも今までの追ってきたファンなら、解説部分は「知ってるからいらない」のです。細々した紹介を全て切り捨てたのは英断。

一番斬新なのは、このアニメが周回プレイ後として描かれていることです。

RPGではよく「強くてニューゲーム」という言葉が使われます。
一回クリアした後に、アイテムやステータスを引き継いで最初からゲームをするシステムで、言葉自体は「クロノ・トリガー」から使われるようになりました。

『ペルソナ4』が二周目以降引き継ぐのは、今まで作ったペルソナ(召喚して戦わせる自分の分身です)全て、所持金、HP以外の勇気・知識・伝達力などの性格的ステータスです。
今まで育てに育てまくっためちゃくちゃ強くて高レベルのペルソナを召喚出来る時点で、チートなわけです。二周目以降だとボスキャラ瞬殺なんてザラです。

これを再現しました。
アニメ『ペルソナ4』ではザコキャラ相手でもペルソナ召喚してやっと勝ったくらいなのに、『ペルソナ4ゴールデン』では無数の敵を一瞬で壊滅。
あれはマハジオダイン、あるいはメギドラオン……?
最弱のはずのイザナギがあれだけの強いとなると、相当コツコツ育ててスキルカードも揃えているのかな、と想像するのも楽しい。

加えてこの作品の場合、ステータスの引き継ぎで性格が変わるのが大きい。
一周目のはじめは勇気も伝達力も寛容さもほとんどないので、「クールで寡黙っぽく見える」「話すのが少し苦手」というキャラクターに必然的になっています。

ところが二周目以降ステータスを引き継ぐと、全てのパラメーターが上がった状態でスタートします。
こうなると、誰にでもフレンドリーに話しかけ、明るく元気でいつも前向き、常にテンションが高いキャラクターになります。

ゲーム進行中であれば成長したと理解できますよ。よく話すようになったね、と。
しかし最初からそんなノリの言動を繰り返すもんだから、二周目だけ見ると変人です。

このシステムに翻弄された変人っぷりをそのままアニメにしました。
初対面のガソリンスタンド店員に自分から握手を求める、お世話になっているおじさんの挨拶に「押忍!」と返す、異質なキャラと出会っても全く驚かない、友人と一緒にほいほいナンパをする。
おい!クールな主人公はどこにいった!!

ゲームをやっていた人ならニヤニヤできるポイントの一つが、主人公のセリフがゲームの選択肢に元々あるという部分です。

アドベンチャーパートは選択肢を選んで進んでいきます。
例えば「爛れた都会から辺鄙な地方都市に飛ばされてきた哀れな奴だ、いわば落ち武者だ」という先生のセリフがあります。
それに対しゲームでは
「よろしく」
「……」
「誰が落ち武者だ」
の3つの選択肢が出てきます。

アニメ『ペルソナ4』では選択肢は「……」でした。ステータスあがってない状態ですし、適切でしょう。
ところが周回プレイ後を想定した『ペルソナ4ゴールデン』では「誰が落ち武者だ」を選択、しかも出会ったばかりの先生にも壇上で握手を求める豪胆さ。

その他にも、「真面目な選択肢」「冗談みたいな選択肢」がたくさん出てくるこのゲーム、『ゴールデン』アニメ版では「冗談みたいな選択肢」だけをひたすら選択し続けます。
マイペースな変人っぷりに拍車がかかりました。

『ペルソナ4』はファンの層が厚くなることで、二次創作が増えました。派生する公式のネタも増えました。メタなネタもどっさり増えました。2008年のゲームだからもう6年もたつんだもん、熟成もします。

これらのネタがどしどし盛り込まれています。
最も目立つのは、主人公が極度のシスコンだということでしょう。
二話で主人公は単車に乗って男友達とナンパに行きます。同時に女友達と買い物に行きます。
しかし彼の最優先事項はこれらではなく、お世話になっている堂島家の従姉妹、小学1年生の娘さん、菜々子と一緒に夕食を取ること。
(ちなみに、このシーンに出てくる文章を縦読みすると……)

元々は主人公も、菜々子大好き設定ではありません。選択肢次第では菜々子を完全に無視してプレイもできます。
ところがこの6年の間に、「菜々子を放置して出かけるなんてできない!」「俺はナナコンなんだ!」というファンが溢れかえりました。ぼくも重度のナナコンです。
格闘ゲーム『ペルソナ4ジ・アルティメット イン・マヨナカアリーナ』ではそのネタを拾い上げ、主人公の二つ名は「鋼のシスコン番長」になりました。可愛い菜々子は誰にも渡さん!
もう今や、主人公=シスコンは半ば当たり前になっている。それをアニメで再現しました。
そうそう、これでいいんだよ。

ゲームをプレイした人、前作アニメを見た人には、これ以上ないくらいに「それが見たかったんだよ!」という作品。
このあたりは、これから発売される格闘ゲーム『ペルソナ4・ジ・アルティマックス・ウルトラスープレックスホールド』(長い)にも通じるものがあります。二次創作的ネタ+ミステリー部分ネタバレ全開ですから。
ハイテンションシスコン番長のノリノリ青春ライフを楽しんじゃいましょう。
エブリデイヤングライフ、ジュネス。


『ペルソナ4 ザ・ゴールデン 1』BD
『ペルソナ4・ジ・アルティマックス・ウルトラスープレックスホールド』

(たまごまご)