「家の隣に遺体保管所ができる。毎日遺体の近くで生活することになってしまった」──川崎市で起こった問題が、各メディアで取り上げられている。
7月25日にはTBS「Nスタ」、29日にはテレ朝「モーニングバード」、31日には「情報ライブミヤネ屋」でコーナーを作って放送された。
騒動の発端は、工場と住宅街が混在している地域にいきなりできた「遺体保管所」。遺体保管所とは、火葬場で火葬しきれない遺体を一時的に保管しておく施設のことだ。
住民は遺体保管所の建設を知らされておらず、説明会を要求。6月下旬に緊急説明会が行われた。
住民側の反対理由のおもなものは「(遺体が近くにある)精神的なストレス・不安」「騒音や衛生管理に対する不安」。子どもへの悪影響や、資産価値の下落を気に掛ける声もある。説明がなかったことによる反発も強い。
対して、業者側は「社会的に必要な施設」と理解を求める。また、遺体保管所の場合は近隣住人から同意を得る必要はないため、そこに関する問題はなかったとする(火葬場や墓地の場合は同意が必要だが、散骨場や遺体保管所の場合は必要がない)。
このように、業者側と住民側の意見は真っ向から対立。同意や合意を得られないまま、現在も施設オープンに向けて準備が進められている。


このような問題は川崎市が初めてではない。2011年には東京・大田区で同様の反対運動が起こった。けれど、そちらも最終的に同意や合意はなく、現在も施設は運用されている。
遺体保管所が新しく建設される理由は、「必要だから」。ではなぜ、遺体保管所は必要とされているのか?

その答えは簡単。全国的に火葬場が減少してきているからだ。
厚生労働省の報告を引用しよう。平成8年の全国火葬場の数は8481。しかし平成24年には4352と半分ほどになっている。もっといえば、この4352の火葬場のうち、1年以内に稼働実績のある火葬場は1480しかない。
火葬場が減少した理由は、施設の老朽化と、施設同士の統廃合。また、新しく火葬場が増えないのも原因のひとつになっている。

先述のとおり、火葬場の建設には住民の同意が必要。しかし、だいたいが大きな反対を受け、話がまとまることは難しい。今年の5月にも、岐阜県高山市で火葬場の建設計画が立ち上がったが、住民の猛反発により難航。2か月経った現在でも建設のめどは立っていない。このようなことは全国で起こっている。
全国的に火葬場が減っている一方で、火葬を必要とする遺体の数は増えている。平成8年に火葬された遺体は約94万体。それが、平成24年には約132万体に増加しているのだ。

その結果「火葬の順番待ち」が起こる。たとえば東京では、26か所しかない火葬場で、年間11万人を扱わなければいけない。施設が技術的に進んだとしても限界はある。焼くのが追いつかず、いったん保管しておかなければならなくなる。

経済格差の問題も絡んでくる。現在、ほとんどの火葬場が斎場とセットになっている。「高い斎場ならすぐに火葬場が利用できる」という状態だとしても、経済的に余裕がなければ「安い斎場の順番待ち」をしてしまう家庭もあるだろう。
どのみち、遺体保管所は社会的に必要度が増していっている。
少子高齢化社会で、今後ますますこの「順番待ち」は悪化していくだろう。住民の同意を得て火葬場を増やしていこうとしている地方自治体もあるが、全国的な流れにはなっていない。火葬場が増えない以上、遺体保管所をつくるしかないのだ。

理屈では、「火葬場を増やす」「増やせないなら保管施設をつくる」しか解決策はない。
けれどそれを素直に受け入れられないのもわかる。必要だとわかっていても、法律で許可されているとしても、隣で「死」を扱われることに悪感情を抱くのはわかる。本音を言ってしまえば「よそでそういった施設が増えるのはすばらしいこと。でも、うちの近所にできるのだけはいや」となる人がほとんどだろう。


遺体保管所とは少し違うが、同様のケースが今年5月に熱海で起こっている。散骨場の建設計画が事前説明なしで立ち上がり、地元住民が反対運動を起こした。「墓地」であれば住民の同意を得る必要があるが、「散骨場」は「埋蔵」を行わないので現行の法では「墓地」扱いになっておらず、説明する必要がない。そのために起こった騒動だった。
このケースは、最終的に(一度は建設を許可していた)市が業者に計画の中止を求めた。その理由は、ざっくりまとめると「この施設は墓地にあたる(ので、住民の同意がない以上建設計画を進める許可は出せない)」というもの。

しかし、このような逆転はめったに起こるものではない。また、今後も全国各地で同様の問題が多発していくことは明らかだ。
では、法律や条例を整理・制定して、このような施設も規制の対象にいれていくべきなのだろうか? その結果、「順番待ち」の遺体はどうなってしまうのだろう。

2012年に放送されたNHKの「クローズアップ現代」では、ドライアイスで遺体を冷やしながら、火葬場が空くまでの10日間を自宅で過ごした家族が紹介された。「待っても空きがでない」と遠くの斎場での火葬を選ばざるをえない家族もいた。このような人たちは、今後ますます増えていく。

(青柳美帆子)
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