人と話したくない。いや、本音を言うと、うまく話せて会話の中心に入りたいけど、トーク技術もないし、内容も思うように相手へ伝わらない。
気の置けない人と話すことに問題ないけれど、初対面の人との会話は苦痛で仕方がない。そう感じている人は多い。

口べたでも会話への恐怖をなくし、会話を楽しく成立させる方法はないものだろうか……。そこで、会話術セミナー講師のかたわらNHK「あさイチ」に出演したり、『しゃべらない会話術』『人に好かれる話し方の法則』の著書を持つスピーチコンサルタント・村松加王里さんに、口べたでも会話を楽しくするコツを聞いてみた。

――会話以前にそもそも初対面の人だと緊張して、それが相手に伝わってしまうのですが……。
姿勢を良くし、できるだけ大きな動作を意識するだけで、落ち着いた頼もしい印象を演出できます。
緊張すると、まばたきの回数も増えます。その回数を意識的に減らすことも効果的です。クリントン元大統領やブッシュ元大統領、オバマ大統領もまばたきの訓練を受けているそうですよ。加えて笑顔も忘れないようにしましょう。20代半ばを過ぎたら、笑顔はそれまで以上に重要になります。40代以降は、笑顔はコミュニケーションにおいて最重要の要素です。


――見た目でそれなりの印象を与えても、話がうまくつながりません。どうしたらいいですか?
人と会う前に、分かる範囲でいくつか相手のことを知っておきましょう。会話中は調べたことをもとに、話題の「振り」に徹します。すると相手は積極的にしゃべってくれます。もちろん事前に調べられる場合ばかりではないので、日頃から時事ネタを仕入れておくなど、話題の引き出しを常に多く持つことも有効ですね。

――話題をつかんでも、そこから広げられません。

相手の会話に無理して自分の話を入れ込まず、相手のしぐさを真似るように相手の言葉を真似れば、会話は簡単に続けられます。拙著『しゃべらない会話術』に載せた一例を紹介しましょう。Aをあなた、Bを相手とします。

A:今日はどこからお越しですか?
B:東京から1泊で温泉に来ました。
A:東京からですか! どなたと温泉旅行ですか?
B:久しぶりに家族全員で来ました。
A:ご家族全員とは楽しそうですね!
B:大所帯です! おじいちゃん、おばあちゃん、妻、子どもと、犬と……

もちろん、事前に相手のことを調べられないケースもあるでしょう。
その時は、話題を見つけて広げるために、この技術を使います。やりとりの中で面白い話題を発見したら、そこを掘り下げましょう。

相手の話をあえて止めて、再び続けることもコツの1つです。会話を止めることにより、相手への関心が強調されるので、相手の会話に拍車がかかります。そこへ、前述のように言葉を重ねていきます。

B:雑誌のプレゼントに応募したら当選しちゃった! なんと、景品は40型のテレビで、ブルーレイ搭載なのよ。
これが……
A:ちょっと待って! すごいじゃない! ブルーレイ搭載のテレビだって? それで、それで?
B:そのブルーレイがすごいの。今より3倍も録画ができて、しかも……
A:えー! ちょっと待って! そのブルーレイ、3倍も録画できちゃうんだ。それから?
B:それにね。このテレビは……

拙著では他にもいろいろと会話のコツを紹介しているので、参考にしてみてください。

――真剣に耳を傾けていても「聞いていない」と言われることが多いです……共感する技術を教えてください。
ボディーランゲージに注意してみましょう。
多少大げさかなと思うくらいで、相手にはちょうど良いくらいに伝わります。相手の話題に対し、自分から言葉が出なかったら、感嘆を込めたうなずきや相づちをしましょう。無理に気の利いた言葉をかけようとするより、しっかりと相手に共感が伝わります。アイコンタクトの回数も大事です。多ければ多いほど相手は親近感を持ち、より真剣に話を聞く姿が伝わるはずです。

「ありがとう」といった感謝の伝え方も、相手に親近感を持ってもらうチャンスです。特に相手の名前を一緒に添えて言うことで、気持ちが伝わりやすくなり、心の距離も一気に縮まります。

――常にしゃべっていればいい、というわけでもないんですね?
円滑な人間関係や豊かなコミュニケーションを実現させようとする時、必ずしも多弁さやトーク技術は重要ではありません。相手をいかに理解し、共感し、互いに気持ちよく通じ合えるかがポイントです。これらが抜け落ちると、コミュニケーションは上達しません。口べたは口べたのままでいいので、「理解」「共感」「伝心」を大切にして、すてきな人間関係を築きましょう! 
(加藤亨延)