本日23日、プロ野球の一大イベント「ドラフト会議」が行われる。ドラフト会議を待つ立場の心境や裏側、大成する選手としない選手の違いを、TBS「プロ野球ドラフト会議2014」生中継で解説を務め、自身も「ドラフト1位」として指名された元巨人のエース・槙原寛己に聞いた。
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《プロで必要なのは圧倒的な「基礎体力」》

─── 今年のドラフトでは、安樂智大投手(済美高)、高橋光成投手(前橋育英)、岡本和真選手(智弁学園)など、高校生の注目選手が目立ちます。ただ、高卒選手でいきなり活躍できるのはほんの一握りです。高卒選手がプロで1年目から成功する・しないを分けるポイントはどんな点でしょうか?

槙原 プロで活躍できるかどうかの重要な要素は、やっぱり、圧倒的な「基礎体力」だと思います。時たま、いきなりポンっと5勝くらいあげる新人投手がいるじゃないですか。でも、そういう投手に限って2年目以降、怪我がちになって出てこなくなる。最近だと、楽天の釜田とかがそうですよね。


─── 確かに、釜田投手は3年目の今年、右ヒジ手術の影響で登板がありませんでした。

槙原 最終的にはデビューが遅くとも、何年か後に頭角を現して地道に投げ続けられる投手の方が通算勝ち星は多いですよ。だから、よっぽど基礎体力がしっかりしていて、「こいつはすぐにいける!」という選手であれば1年目からどんどん使ってもいいと思いますが、それ以外は、むやみに出さないほうがいいと思います。

─── 故障の原因になる、と。

槙原 怪我の心配もありますし、やっぱりちやほやされると、勘違いしちゃう選手って多いんですよ。それは僕もそうでしたけど、いきなり活躍して(槙原はプロ初登板初完封。
その年、新人王も受賞)、給料も増えて、いろんな賞品ももらえる。サインも求められる……なんてことになると勘違いしちゃうんです。それよりも、たたき上げで苦労した選手の方が最終的には長生きするんじゃないか、怪我も少ないんじゃないかと思います。

─── 去年の藤浪晋太郎投手(阪神)や大谷翔平投手(日本ハム)、楽天時代の田中将大投手のように、ルーキーイヤーから連続して活躍するのは例外だ、と。

槙原 あそこまでを最初から狙わないほうがいいと思います。だから、今年の高校生でドラフト指名される選手たちは、4年間大学に行ったと思って、焦らずにプロとしての基礎体力を身に付けるのがいいんじゃないでしょうか。


─── 毎日試合がある、というのは、それほど体力を消耗するんですね。

槙原 体力の消耗度でいえば、高校時代とはまったく違います。試合だけじゃなく、練習も毎日ですから。

─── その過酷な状況を乗り越えて、槙原さんがプロでやっていける! と自信を持ったのはいつになりますか?

槙原 やっぱり、2年目のシーズンが終わって新人王をいただいたときですね。


《球速にこだわることもできる今の子たちが素直にうらやましい》

─── ちなみに槙原さんは、大谷翔平選手の二刀流挑戦はどう考えていますか? ピッチャーかバッターか、もしくは二刀流のままでいいのか。

槙原 あんなバッティングとあんなピッチングをしてしまったら、自分でも決められないですよね。
自分で自分の可能性を潰すことになるわけですから。最終的にどうするかを選択するのは本人ですが、選ぶのは大変だろうなと思います。

─── それこそ、先ほど槙原さんが懸念された怪我のしやすさにもつながるかと思うのですが。

槙原 大谷選手の場合は、体が柔らかくて怪我をしにくい体だからできると思うんです。でも、自分も経験上、怪我をするのは20歳を過ぎて21歳ぐらいから。大谷選手は今年20歳になったわけで、今後は怪我の可能性も増えてくるので怖いですよね。


─── 大谷投手は今年、日本球界最速の162キロを連発しました。槙原さんも高校時代、世代最速投手と呼ばれ、プロ入り後も150キロ台の速球が武器でした。やはり球速へのこだわりはありましたか?

槙原 そういう時期もありましたけど、やはり僕のときと今の時代とでは、トレーニングの仕方から違いますからね。僕らの時代はただ漫然と、やれ走れ・鍛えろと言われた時代。結果的に球が速くなる場合もありますけど、球速UPを具体的な目標にするのには無理があります。でも、今の時代は、球を速くするにはどうしたらいいか、どこを鍛えたらいいのか、というアプローチがいくらでも調べられる。
トレーナーも確保されていて、トレーニングジムもあって、という環境です。だから、どんどん球速が上がる可能はありますよ。今の子たちは球速にこだわることもできて、素直にうらやましいな、と思いますね。

─── 自分も今の時代に現役だったらもっと出せた、と。

槙原 出せると思いますね。

─── どのぐらいまでいけると思いますか?

槙原 いやぁ、わからないですけど、球速、という点だけでいえば相当楽だったでしょうね。トレーニング、正直そんなにはしてなかったですから。


《完全ウェーバーか、自分でクジ引きか》

─── ドラフト制度は、この数年は安定していますが、過去には逆指名制度があったり、高校と社会人で分かれたりと、紆余曲折がありました。槙原さん自身は、ドラフト制度はどうあるべきだと考えていますか?

槙原 最終的には、完全ウェーバー制度(シーズン終了時のチーム順位を基準に、最下位のチームから順に選手を指名する方式)になっていくのが一番いいんじゃないのかなと思います。

─── よく、競合でクジを引くなら選手に引かせろ、みたいな意見もありますが。

槙原 それも面白いですね。いや、それはあるなぁ……むしろ、なんでやらないんだろう? 事前に対象選手を呼んでおかなきゃいけないから? でも、自分でクジを引けるのはすごくいいと思いますね。何よりも選手自身が納得できると思います。

─── テレビ中継も盛り上がりそうです。

槙原 TBSのドラフト中継で毎年解説を担当していますが、会場で見るクジ引きの瞬間、「うぉーっ!!」という歓声は、それはそれでドラフト名物で楽しみではあるんですけどね。でも、その裏では涙を流す選手もいるわけです。

─── それもまたドラフト名物ではありますが。

槙原 でも、自分でクジを引けたら、「あのとき、あの人が引いてくれなかった」ということもなくなるし、「まあ、しょうがないか」と意外に吹っ切れて頑張れるんじゃないですかね。


《今年のシーズンの反省点がドラフトで見えてくる》

─── 今年のドラフト候補のなかで特に注目している選手は誰でしょうか?

槙原 やっぱり即戦力でいえば早稲田大の有原航平投手ですね。あとは済美高の安樂智大投手か。でも、安樂君はちょっと怪我が心配ですから、そんなに競合はしないんじゃないかなと思います。

─── ドラフト中継を楽しみにしている視聴者は多いと思います。ドラフトをより楽しめるようになる視点や見方はありますか?

槙原 自分の贔屓チームにとって、どのポジションが最重要課題なのかを考えると、自ずとどういう指名になるのかがわかってくると思います。打撃力のあるチームがピッチャーを欲しがるとか、そのポジションを狙うということは、あぁそういうことか、といった感じで。ある意味で、今年のシーズンの反省点がドラフトで見えてくると思います。

─── 槙原さんから見て、この球団は毎年ドラフトがうまい、と思う球団はありますか?

槙原 日本ハムは面白いですね。何をしてくるかわからないですから。面白くて心配なのが日本ハム。

───  3年前の菅野智之(現・巨人)、2年前の大谷翔平の強行指名が象徴していますね。

槙原 でも、そういう球団がないと、ドラフトはやっぱり面白くないんですよ。

「プロ野球ドラフト会議2014」
10月23日(木)16:53~17:50、TBS系列で全国生中継。また、TBS系では同日19時から「ドラフト緊急生特番! お母さんありがとう 夢を追う親子の壮絶人生ドキュメント 運命の瞬間生中継」も放送される。

<槙原寛己プロフィール>
愛知県出身。愛知県立大府高では1981年のセンバツ大会に出場。同年、巨人からドラフト1位指名される。斎藤雅樹、桑田真澄とともに1990年代の読売ジャイアンツを支えた先発3本柱の一人。1994年5月18日に完全試合を達成した「ミスター・パーフェクト」。現在はTBS野球解説者。

(オグマナオト)