10月からはじまったドラマの中で何がおすすめ? と聞かれたら「素敵な選TAXI」(フジテレビ火曜22時〜)と答えたい。なんだか妙にハマるドラマで、こりゃ、ダークホースでありました。


選TAXI→選択肢 こんなダジャレのタイトルのため、最初は、深夜の30分ドラマかと思っていたのです。
いくら主演が一流イケメン俳優・竹野内豊だと言えですよ、脚本が芸人のバカリズムなので、おもしろ企画ものなのかな、それはそれで好きだけど、なんて軽い気分で見てみたら、これがけっこういい。

「素敵な選TAXI」は やり直し と 癒し のドラマです。

「人生とは分岐点の連続である」

ということで、人間は常に選択をしながら生きていて、あの時、違う選択をしていたら・・・と後悔することは誰でもあります。
もう一度やり直したい願望を叶えてくれるのが、竹野内豊演じるタクシー運転手・枝分(えだわかれ)。

枝分の乗った黄色いタクシーはタイムマシンで、時間を遡ることができる優れものです。
その分、料金は初乗り10分3000円と、けっこうお高いのですが。

第1話は、「男と女の選択肢」(10月14日放送、視聴率10.7%)。
長い春を過ごしている恋人同士(安田顕、小西真奈美)がついに結婚に踏み切るか、別れてしまうのか、という選択肢で迷いました。

第2話は、「今と昔の選択肢」(10月21日放送、視聴率9.7%)。
誘拐事件の犯人逮捕に協力したと思いきや、誘拐と見せかけた駆け落ちだったことを知った男(仲村トオル)が、過去に戻って駆け落ちに協力します。

第3話は、「愛と人の選択肢」(10月28日放送、視聴率12.6%)
会社の社長(中村俊介)と不倫をしている秘書(木村文乃)が、過去に戻って社長と奥さんを別れさせようとしますが・・・。


まず、視聴率に注目しますと、2話では少し下がりましたが、第3話では初回を超えています。
人生のやり直しという内容がとっつきやすく、見る人を選ばないところが良いのではないでしょうか。
過去90年代、フジテレビは「ifもしも」という同じ趣向のドラマをヒットさせています。

過去に戻ってやり直すことと、枝分と彼のいきつけのカフェ(店名はchoise、店長はバカリズム)でのエピソード以外は、一話完結オムニバスで、事件あり、ラブあり、ヒューマンドラマあり、なんでもありのファミレス的ドラマ。
ガッツリ焼き肉とかフレンチとかじゃなくて、見終わった後、胃にもたれない感じがいいんです。
それでいて、BGMが音数多いビッグバンドで、ビンボーくさくなく、晴れやかな気分になります。


その音楽に乗って、毎回、ゲストキャラがまず失敗して、枝分に頼んで過去に戻ってやり直し、でも、簡単にはうまくいかず。何度か高い料金を払って過去に戻り直し、最終的にゲストキャラが選んだ道はーー意外なものというサプライズ感もいいです。

単純なハッピーロードでもなく、すごい悲劇でもない、自分が考えに考え抜いた選択だから、甘さも辛さもいい案配で、それがまたaikoによる主題歌「あたしの向こう」と絡まって、しみじみしたエンディングを迎えるのです。

甘辛、悲喜劇、どっちでもなく、どっちでもありの最たる象徴が、劇中劇の「犯罪刑事」です。YouTubeでも公開されているこのドラマは、犯罪者であり刑事である男が主人公です。
視聴者の好物・刑事ものを使って、人は常に悪と正義、どちらにも転び得る。
そして、その選択肢で揺れていることをさりげなく描いています。

バカリズム、深夜番組で、かしましく混沌としたアイドルグループ・アイドリング!!!を、柔らかい物腰ながら鋭く鮮やかに仕切っているだけはあり、極めて目端が効いていて、「犯罪刑事」をはじめ、随所に工夫を凝らしています。

例えば、1話で、選タクシーが、過去に戻る時、特に何も変わったところがなく、タイムスリップ感がないと自ら言う枝分。2話ではさらに、タイムスリップ感は減って、舞台が牧歌的な海沿いの道になってしまいますが、3話ではとうとう奇妙な音楽が流れ、タイムスリップ感というかSF感みたいなものを醸します。
これ、今後も進化していくのか、気になってなりません。

なんといっても、枝分がチャーミングで、彼が、前述のドラマの魅力「癒し」を担っています。

バカリズムは、竹野内豊のミステリアスな2枚目感を実に見事に利用して、キャラクターを作りあげました。

竹野内豊は90年代にデビューしてからずっとイケメンとして人気を博してきました。41歳となった現在も、劣化することなく、いい感じにちょっととぼけたダンディな中年という、日本人にはなかなかいない、今、リリー・フランキーが独り占めしているジャンルを攻め始めた気がします。
リリーさんはクリエーター系、竹野内さんは2枚目系としてジャンル内で細分化したら良いのではないでしょうか。余談ですが、もうひとり、「花子とアン」の伝助で大ブレイクした吉田鋼太郎も演技派系ダンディ中年としてくわえたいところですね。

鼻の下に蓄えたスーパーマリオのようなヒゲが、前髪を後ろになでつけて表れた額のシワ共々、色っぽい竹野内豊。

今年公開された「ニシノユキヒコの恋と冒険」(井口奈巳監督)という映画では、たくさんの女性にモテて、すぐつきあうけれど、必ず女から去っていくという不思議なキャラを演じていましたが、相手の芝居を受け止めるのが巧みなんです。相づちや、手を差し伸べるタイミングがいいのです。

私生活や素がさっぱりわからず(最近久々に熱愛報道ありましたが)、自ら何かを多く語ることもなく、ミステリアスで、話し方もゆっくりで、過剰なオフ台詞が蔓延する時代に相反した存在ですが、逆にそういうところが癒されます。こんな人がタクシーの運転手だったらいいなあ。しゃべりすぎず、しゃべらなすぎずで。
人生の選択肢を間違えて落ち込んで、タクシーに乗った時、この人になら、相談することができそう。

バカリズム脚本は、このミステリアスでおっとりした枝分のオフ台詞も用意しますが、裏の顔もまったく害がありません。
仕事のあとのデザートは外したくないと懸命にメニューを見ていたり、ロマンチックなパワースポットに興味があるけどそうは思われたくないと葛藤していたりします。
そのオフ台詞もあっという間に、オンになっていて、乗客に発する言葉を「あわよくばかんを感じたなら誤解だから」などと自意識過剰な訂正をしたり、泣いてる乗客にハンカチと間違えて靴下(指が分かれているやつ)を渡したり、何かとカメラ目線でしゃべったりと、オンもオフも人の好いことこの上ない。
こんなキャラ、昨今、本当に珍しいです。

最近の主流は、過剰な言葉、隠さずさらけ出す裏側の悪意、はたまた逆に、あり得ないほどいい目にあってばかりいる主人公の嘘くささ・・・などなど、何もかもが極端すぎて、疲れている人には、「素敵な選TAXI」は癒しです。

人生やり直したい悩みに飄々と応対してくれて、まったくえらそーじゃない枝分さんに会いたくて、ついつい毎週、選TAXIを選択しちゃう。
11月4日放送の4話は、一億円の宝くじの当選券を拾った男(勝地涼)の人生の選択。気になりますね。
(木俣冬)