●「なぜ休止?」より「ついに休止」

どこのお店でも時計型おもちゃは入荷してすぐ売り切れ、親と子供が「商品を探すこと」そのものがゲームになってる感のある『妖怪ウォッチ』。当初予想の5倍もの売上が予測されるスゴい勢いですが、アニメ版の第39話がAT-Xとバンダイチャンネルで相次いで放送休止。
テレ東では一度は放送されたものが、どうしてこうなった?
ファンも色めき立ちましたが、「なぜこんな良い子の番組が!?」という声はめっきり聞きません。アニメ版『妖怪ウォッチ』は前からきわどいパロディやりたい放題で、今までギリギリのラインを綱渡りしていたから。「ついにアウトだったか」「いつかはこうなると思っていた」と深くうなずく向きばかりだったりします。
よって正しい心配の仕方は×「なぜ休止になったか」○「どのネタがマズかったのか」、コレです!

●親子というよりお祖父さんと見るアニメ?

家庭の雰囲気がどんよりしている、コンビニで買い食いしちゃう、夏休み明けにクラスメートがグレてる……なんでもかんでも妖怪の仕業だ!というふうに、本作の妖怪は「あるある」ネタを擬人化したキャラクター。その中にはみんなが知ってる共通の話題、つまり芸能人や映画、他のアニメや漫画などのパロディが混じりやすい構造があるわけです。
もも上げだぁ!唐揚げじゃないぞ!とエクササイズを指導してるブリー隊長は、どう見てもかつてブームになったビリーズブートキャンプが元ネタ。
このブリー隊長がジバニャン達をしごくエンディングが毎回流れているスゴさ。
そして劇中で妖怪ウォッチを開発した設定になってるのは、サメの妖怪のスティーブ・ジョーズ。ヨップル社の社長で黒無地のタートルネックとジーパン姿で流暢にプレゼン、手にしているのは新型の時計。ということで、アップルウォッチの発表を予言していた!と騒がれた一幕もあったりしました。ついでにジョーズとは言うまでもなく動物パニック映画のアレで、二重の意味で攻めてます。
主人公ケータくんの友達で小柄なカンチと力持ちのクマ=ギザギザ頭とガキ大将のあの人達へのオマージュと言われますが、人気者のジバニャンも玩具の「おしゃべりジバニャン」では「僕はちにましぇーん」と101回プロポーズしそうなボイスをおしゃべり。
てっきりアニメだけのネタ台詞かと思ったら、商品化しちゃう勇気!
親子ともに楽しめる良質なアニメと言われる『妖怪ウォッチ』、おそらく正確には「大人と一緒に見ないと子供が置き去りにされるアニメ」でしょう。「カプセルの蓋を持ち上げるケータくんやジバニャン」(第17話の妖怪大辞典)が「季節の野菜の中から出てくる海産物ファミリーや猫」をオマージュしてるのは分かるとして、連続コントの「太陽にほえるズラ」って元ネタは28年前に放送終了ですよ。土手っぱらに風穴を開けられたウィスパー刑事が「なんじゃこりゃあああ」(妖怪なので殉職しません)と叫ぶシーンで、アラサーどころかアラフォー向け作品に決定です。
ヘタすると「パパと子供」じゃなく「初孫とお祖父ちゃん」推奨アニメ……。八頭身になったジバニャンが太い眉毛と胸に傷でひゃくれつ肉球やってた第19話も、30代のお父さんにキツそうです(キャラクターデザインの須田正巳さんはアニメ版『北斗の拳』もやっておられました)。

●反省する気ゼロの素晴らしさ

で、放送休止になった注目の第39話。
直前の第38話で『給食のグルメ』で「カレーはいつ食べても本当にうまい。こんなにうまいものだったっけ……」と中年顔になった小学生がつぶやくコーナーはどきどきしましたが、別にお咎めもなく絶賛配信中。これがセーフなのに、いったい何がマズかったのか。
クラスメートや先生たちにどうでもいいウソをつかせる妖怪“U.S.O”。取り憑かれた人達が告白するたびにBGMが流れ、“U・S.O!”と歌って踊る……どう見てもピンクレディーの『UFO』イントロです。さらにニャーKB(ジバニャンの推しアイドル。
これが今までセーフだったのもスゴい)がUSO会見で「私達、普通の女の子に戻ります!」と言いながらステージ上にマイクを置くのはキャンディーズ×山口百恵の引退コラボであり、キャンディーズの大ファンだった石破茂さん(57歳)世代のアラフィフ向け。
かてて加えて「妖怪ネタバレリーナ」話では、フルフェイスヘルメットを被った悪の幹部の『スペース・ウォーズ』。結論:一線を越えたネタが多すぎて、どれがマズかったのか分からない。
自粛ムードになるかと心配されましたが、翌週にはタマネギ頭のばくろ婆とタキシード姿のじんめん犬が司会をする『妖怪ベストテン』をやっていたり(回転ドアまで再現)、最新の第43話ではだ~れが殺したクックロビ……と空耳が聞こえる音頭をやってて、反省する気がゼロで安心しました

もっともアニメの制作は時間がかかる性質上、自粛の方針が決まったとしても数ヶ月のタイムラグはあるものですが、今のまま突っ走っていただきたい。子供にオタク知識を自慢するためにも結婚したくなる少子化対策アニメ!
(多根清史)