「監督・佐藤順一×メカデザイン・河森正治×シリーズ構成・岡田麿里」という超豪華トリオや、放送開始早々にメインヒロインの一人がロボットのパーツ(のようなもの)にされてしまう「黒い」展開でも話題を集めたTVアニメ「M3~ソノ黒キ鋼~」(正式には黒は旧字体)。
しかし、放送期間中、カフェ「SHIROBACO」で毎週開催されていたトークイベントは、作品のムードとは真逆の明るい笑いに満ちていた。

大団円から約1か月後の10月31日。DVD&Blu-rayBOXとゲームの発売を記念して「カエッテキタ『M3~ソノ黒キ鋼~』 SHIROBACOハロウィンナイト」が開催。豪華な出演者が集い、おおいに盛り上がった。

≪主役メカのデザインだけが大変な理由≫

司会は、佐藤監督と声優の儀武ゆう子(オババ役)。
第1部では、主役メカ・マヴェス(アージェント)のデザインを担当した河森がゲストに登場した。同じ年(54歳)で、20代からアニメ界の第一線で活躍し続ける二人のトークは、「M3」のファンだけでなく、あらゆるアニメファンにとって貴重な内容に。


「超時空要塞マクロス」のバルキリー、「創聖のアクエリオン」のアクエリオンなど、独創性あふれる主役メカを次々と生みだしてきた河森。しかし、アニメの作品数が非常に多い近年、主役メカのデザインはますます大変な作業になっているという。

河森「主役メカ以外だったら、1日に何点も描ける。主役メカだけが大変なんですよね。なぜ大変かと言うと、他の作品と明らかに違うところを見つけるまでが大変なんですよ」
佐藤「『かっこいい』の記号は決まってるからですよね」
河森「そうそう。かっこよくてヒーローメカなんだけど、他の作品のメカとは絶対に違うってところを見つけるまでに、何か月もかかってしまうんです。
それさえ見つかっちゃえば、あとはバリエーションなので何とかなるんですけど」

主人公・鷺沼アカシが乗るマヴェスの原型機「アージェント」のデザインの決め手になったのは、多層構造の目。デザインが難航していたとき、愛車のテールライトを見て思いついたそうだ。

≪河森正治がレゴで作った変形メカを生披露≫

河森メカの代名詞といえば複雑な機構による完全変形。マヴェスも人型形態の他、自転車のヘルメットのようなコクーンモード、移動用のヴェスモードに変形する。
この日は、変形機構の整合性を検証するためにレゴブロックで作ったマヴェス(アージェント)も披露。自転車のヘルメットが徐々に人型のロボットへ変わっていく様子には、会場のファンだけではなく佐藤監督も驚きの声を上げていた。


佐藤「これには、特注のパーツは使ってないんですか?」
河森「これは市販のパーツだけなので、根性があれば作れます(笑)」
儀武「セロテープで止まってるところがありますね」
河森「セロテープで止めているのは、ギリギリまでデザインを直しているから。接着してしまうと、もう変えられないので。あと、(スタッフに)機構を見てもらう時、外して確認する必要もあるんです」
佐藤「ちゃんと変形するようにレゴで作るという話を最初に伺ったのは、たしか『天空のエスカフローネ』のデザインをされている時。ビックリしました。その時は、特注する部品もあるという話も聞きましたが」
儀武「じゃあ、レゴ業界とも繋がっているんですか!?」
河森「本当は特注できないんですけどね。(レゴで)いろいろとやってきたおかげで。
レゴの本社にまで遊びに行ったりもしました」

河森は、完全変形メカのデザイン作業の大変さを「普通のメカをモデリング(デザイン)する作業に『1』の労力がかかるとすると、主役のロボットは『3』とか『5』くらい。でも、変形メカになると、それが『30』くらいになる。一ケタ上になんです」と表現していた。

≪パートナーに死んで欲しかった理由とは?≫

第2部のゲストは、ヒロインの一人・霞ライカを演じた矢作紗友里。
パーソナリティを務めたWEBラジオ「M3~ソノ黒キラジオ~」では、相方の福圓美里やゲストと一緒に、作品のストーリーとは違う意味での「黒い」トークを連発。この日も登壇前に「今日はピー音が無いからマジで気をつけろって、すごく言われた」ようだが、スタッフの懸念どおりのトークを披露。
客席を沸かせた。

ライカたちは、謎の敵に対抗できる唯一の兵器「マヴェス」のパイロット候補生。しかし、マヴェスを操るためには、パイロットと精神を同調できるパートナーが仮死状態になり、「LIM」と呼ばれる装置としてマヴェスの一部になる必要があった。
ライカのパートナーは、明るいイケメンの波戸イワト(CV:前野智昭)。
二人は友達以上恋人未満の初々しい関係で、作中のベストカップルとも言われたが、マヴェスに乗って大活躍したかった矢作の本心は……。

儀武「(イワトが負傷した第16話のアフレコで)矢作ちゃんが『これ、死ぬやつですか? 大丈夫なやつですか?』って、監督に聞いてて」
矢作「あれは……なんで死なないの?(笑)。
あの話を観た人はみんな、『ああ、これはイワト逝ったな。LIMったな』って思ったはずなの! 絶対に! ところがですよ。翌週もあの男……」
儀武「こんなはずじゃなかった?」
矢作「こんなはずじゃなかった! 私的には翌週(マヴェスに)乗るつもりでいたからね! アイツをLIMにする一番のチャンスだったのに(笑)」
儀武「生き残って、どうすんだってね」
矢作「あの回は、さすがに前野くんもLIMになるのを覚悟したらしいんです。でも次週、生きてて。『ここで回避すれば、もう俺は大丈夫』って」
儀武「もう1回は無いと」
矢作「そうなると、今度、危ないのはライカの方ですよ!」
佐藤「ドラマ的には、どちらかが(LIMに)ならないとね」
矢作「あのときの私、変な汗、いっぱい出ました!」

オリジナルストーリーも楽しめるPS VITA用ゲーム「M3~ソノ黒キ鋼~///MISSION MEMENTO MORI」(11月20日発売予定)では矢作の念願が叶い、ライカもマヴェスで大活躍するらしい。
イワト……。

≪「やった」or「やってない」論争に決着!≫

クライマックス間近の第21話。イワトは自らLIMになろうと決意するが、ライカは大反対。その後、良い雰囲気になって砂浜で抱き合う二人。すると場面が転換。いくつかのシーンを挟んだ後、テトラポットの上で手を重ね合わせて座る二人の姿が描かれた。

空白の時間、二人の間に何があったのか?
第21話のアフレコの合間、「やったか、やってないかによっては芝居が変わるから」と、矢作と前野が激論していたところ……。

矢作「監督が若干キレ気味に『やってないから!』って(笑)」
佐藤「ずっと聞いてて、いつまで続くのこの議論って」
矢作「その時は、『まあ、やってないって言うなら良いんですけどね~。やってるとは思いますけど~』って」
佐藤「そんなにふて腐れてたの?(笑)。受け入れてもらえたのかと思った」
儀武「矢作ちゃんが大人になって、引いたんだ」
矢作「そうそう(笑)。でも監督、どう思いますか? 今?」
佐藤「え?」
儀武「監督も、きっと今まではテレビ的なこともあって、そう言ってたんだと思うんですよ。でも放送も終わったし。お客さんがDVDを買う要素として必要な事かもしれない!」
矢作「やってたなら、あのシーンのセリフ、私と前野くんで録り直しますよ。初々しい感じで!」
佐藤「もう、やったってことで良いです!(笑)」

佐藤監督が「やってない!」と主張していたのは、ストーリー上の理由もあったから。それにもかかわらず、矢作の熱意によって、原案者でもある監督の持論が覆される、まさかの事態。
矢作は「後で前野くんにも『勝ったよ』って教えてあげよう!」と大満足。テトラポットシーンの解釈次第で、その後の二人の見え方も変わってくると、さらに盛り上がっていた。

リアルタイムで全話観ていた筆者にも「たしかにそうかも……。見直してみようかな」と思わせる矢作のトーク。
DVD&Blu-rayBOX発売記念イベントの内容としては、100点満点と言えるだろう。

いや、そんなことはないか。
(丸本大輔)

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