コミュニティバスといえば『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京※次回は1月3日放送)でも度々登場。地方では高齢者を中心に重要な交通手段となっている。
実は都区内にも82の路線がある。全ての路線に乗車して『コミュティバス旅行記』を発行した湯浅祥司さんに、なぜ乗ろうと思ったのか等、お話を伺った。

●コミュニティバスに乗る時は忙しい
――そもそも、コミュニティバスが都区内に82路線もあること自体、知りませんでした。
「23区のうち品川区と目黒区を除く21区で運行されています」
湯浅さんはトータルで12日かけて全路線に乗車。
都区内のコミュニティバス制覇にあたって、まずはルートを考える。
「あまり分割して乗ると大変なので、なるべく一日でたくさんのルートをまわれるようにスケジュールを組みました」
ここまでは楽しいが、問題は乗る時のこと。
湯浅さんにとって、やることが多い。
バス停周辺の写真を撮影、時刻表を撮影、到着したコミュニティバスを撮影、車窓から気になったものがないかチェックする、車内を観察する(どんな人が乗っているか、時には会話も楽しむ)など。
都区内のコミュニティバス全82路線を乗った男、湯浅祥司さん登場!!
▲湯浅さんが乗車した路線一覧(一部)


●掲載する時刻表はバス停で調べて自ら作成
湯浅さんは、旅が終わると印象に残ったことを執筆するわけだが、湯浅さんの『コミュニティバス旅行記』の本作りにかける情熱とこだわりは半端ではない。文中では、紹介するコミュニティバスの時刻表の一例を掲載しているが、それは停留所で写真を撮ったものを自らエクセルで入力したものを掲載している。運行会社によっては、公式サイトで時刻表を載せているところもあるので、それを見て打ち込めばいいのではと思うのだが……。

「まれに、停留所に記載している時刻とサイトで公開している時刻の一部が違っていることがあるんです。
だから、停留所の時刻も写真で記録するようにしてるんです」
なんて律義なんだ。実際に誤りを発見して、運行会社に知らせたこともあるそうだ。
都区内のコミュニティバス全82路線を乗った男、湯浅祥司さん登場!!
▲湯浅さんが自ら調べて掲載した時刻表の一例。

さらに、地名には必ず読み仮名を記載している。複雑な読み方をする場合があるし、読者が分からないといけないからとの配慮からだ。
「これが結構大変で、ネットで調べても分からないこともあります。全く予想外の読み方をする場合もあるし、『町』という漢字でも『ちょう』と読む時と『まち』と読む時とがありますし」

『コミュニティバス旅行記』の印刷や製本も、全て湯浅さん自身で行っている。

「昔はインクジェットプリンターを使っていましたが、おもいきってレーザープリンターを購入しました。製本を自ら行うのはコスト削減のためです。総合版は182ページ、オールカラーだから、お金がかかってしまうし」

●撮り残したものがあれば、撮り直しに行く
うっかり撮り残したものがある場合は、撮り直しに行く。
「やり残したことがあると後味が悪いんです。だから、コミュニティバスに乗る時は、それなりに神経を研ぎ澄ませるわけです。撮り直しとなると、また労力が必要となるので……」

例えば、こんなことで撮り直したこともあった。
湯浅さんが「江東区コミュニティバス しおかぜ」に乗った時のこと。
通常は「しおかぜ」専用車両で運行されるはずが、この日は代替車両(都営バスで使用されている大型タイプ)で運行されていた。そこで、後日改めて専用車両を撮影するため、自宅から離れたJR潮見駅に撮影しに行くことに。
都区内のコミュニティバス全82路線を乗った男、湯浅祥司さん登場!!

しかも、同じアングルから撮っているではないか。
「違いが分かりやすいように、同じ位置から撮りました。でもやっぱり、撮り直しは大変です」

●湯浅さん、運転手さんに珍しがられる
コミュニティバスは、乗車時に降りるバス停を告げる場合がある。

「地域を1周する循環コースのバスに乗る時に『1周お願いします』と伝えると『え!?』という表情をされることがあります(笑)」
確かに珍しい客である。ちなみに、1周するのに2時間以上かかる路線にも乗ったそうで、珍しがられても不思議はない気がする。
――それほど、地域の常連さんが多いんでしょうね。
「それもコミュニティバスの特徴の一つです。それに、高齢者が多いので車内に杖を置くスペースがあったり、高齢者や体の不自由な方々が利用する場所をまわるコースが設定してあったりします。ちょっと遅れてきそうなおばあちゃんがいたら、待ってくれたりとか」

●大盛況の路線はコレだ
コミュニティバスは、中型や小型のバスが多い。
燃料が少なくてすむ、狭い道も通りやすいといったメリットがある。
――お客さんが多い路線はありますか?
「文京区内を走る『Bーぐる』は東京ドームや文京シビックシティなどを通ることもあって大混雑することがあります」
観光客におすすめのコミュニティバスもある。
「『お台場レインボーバス』は、JR品川駅や田町駅(2コースあり)とお台場を結ぶ循環バスです。レインボーブリッジを通るし、料金もゆりかもめより安いため、おすすめです」
都区内のコミュニティバス全82路線を乗った男、湯浅祥司さん登場!!
▲写真は『Bーぐる』


●きっかけは、震災が発生する前に三陸を訪れたことだった
湯浅さんはもともと、乗り物に乗ったり、旅行に行くのが好きだったのだが、なぜ都区内のコミュニティバス82路線を全て乗ろうと思ったのだろうか。
「ちょうど、震災が起きる半年前に三陸地域を旅したんです。その時に、行こうと思っていた神社があったのですが、時間がなくて『また来ればいいや』と思ったんです。すると震災が起きてしまって、その神社も被害に遭ってしまい、二度と行かれなくなったんです。あの時に足を運んでいれば、何かを記録することだけでもできてたのではないか……と後悔したんです」

初めて訪れた地域のことは知らないことばかりだが、実は自分が住んでいる地域も把握していないことが多いことに気づいた湯浅さん。
「それがきっかけで、東京の日常を記録しようと思ったんです。何を記録するかいろいろと考えた結果、既存の公共交通では移動が不便な地域住民向けに運行されているコミュニティバスを選びました。コミュニティバスに乗った時の記録を中心にしていけば、その地域のことが少しでも資料として残せるのではないかと思ったんです」
都区内のコミュニティバス全82路線を乗った男、湯浅祥司さん登場!!
▲『コミュティバス旅行記』(北東方面行き、南西方面行き、総合版の3種類)表紙作成時は81路線となっていますが、その後、新路線も開設されたので82路線に。もちろん、湯浅さんは新路線にも乗車。

湯浅さんは、この本を国会図書館に納めている。ウェブサイトに残すのではなく書物にしているのは、形を残すためだったという。
「今すぐには役に立たないかもしれませんが、例えば、夏目漱石が書いたような小説を読むと、文中に1杯のそばが幾らだったかが書いてあるだけで当時の物価が分かるように、数十年、数百年経ってこの本を紐解いた時に、誰かの何かの役に立てたら嬉しいです」
湯浅さんの熱い思いが、未来に届きますように。
(取材・文/やきそばかおる)

●『コミュニティバス旅行記』(湯浅祥司著)
詳細は『そよ風文芸食堂ブログ支店』のサイトにて。
『コミュニティバス旅行記』総合版はオールカラー182ページの大作で1500円。毎年5月と11月に東京で開催される『文学フリマ』のみで頒布。(通販はありません)