「きたない大岩」「ガリガリ君」「とけたソフトクリーム」は、ボルダリング愛好家にはおなじみだと思うが、全て岩の呼称だ。岩を登る課題にも「勅使河原美加の半生」「ガリ子ちゃん」など変わった名前が付けられている。
一体どういうことなのか。岩の名前に魅了され、岩の写真集『エイトマン』『デッド・エンド』を発行した坂口トモユキさんにお話を伺った。

――こういった名前はどういう方が付けるんですか?
「課題(難易度によってグレードが付けられる)の名前は、一番初めに岩を見つけて登り、課題を生み出した人が付けます。有名なのは、日本屈指の凄腕をもつと言われているボルダラーの室井登喜男さん。山にこもって、たくさんの課題を生み出しています」

課題のタイトルは岩の見た目をストレートに表現したものから、なぜこの名前が付いたのか分からないものまでさまざまだ。岩そのものについても、由来の不明のものは多々存在する。
それでは、坂口さんのおすすめの岩と課題とを紹介。

●岩の名前も課題の名前も変わっているケース
・岩の名前「忍者返し」
課題の名前:「子ども返し」「虫」「蛙」「蟹」「亀返し」「クライマー返し」「忍者返し」(岩の名前と同名)
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

御岳(東京都)を代表する岩と言われている。「子供返し」「クライマー返し」が達成できたら初段。「忍者返し」は1級、「虫」「蛙」「蟹」は3段、「亀返し」は初段だそうだ。(グレードは変動することがあります)
都心から近い御岳で一番人気の岩のため、週末にはたくさんの人が登っている。

・岩の名前「ガリガリ岩」
課題の名前「ガリ子ちゃん」「ガリガリトラバース」「シャリシャリ君」
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

瑞牆(山梨県)の森の奥に点在する岩の一つなのでちょっと見つけにくいが、登っている姿をネットで公開している人も……。


ちなみに、白い部分はチョークの跡。ボルダリングでは滑り止めにはチョーク(液体状のものもある)が用いられる。厳密に言えば、チョークに滑り止めの効果があるわけではなく、汗を吸いとるために使うもの。汗を吸い取らなければ滑る可能性があるのだ。
「登り終わるとブラシなどで取り除くのがルールなんですが、たくさんの人が登っているうちに取れなくなっている岩もあるほどです」(坂口さん)

●変わった名前が付けられた岩
・「きたない大岩」
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

「広いキャンプ場内の道路にあり、すぐ見つけられます。難易度の高い課題がいくつもあります。
確かにきれいな見た目ではありません。小川山にあります」

・「溶けたソフトクリーム岩」
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

「御岳の川原にあります。橋のたもとでJR御嶽駅からアクセスしやすいため、ときどきショップ主催のボルダリング講習も行われています。なんとなく、アイスクリームが溶けている雰囲気が醸し出されています」

・「燃えた地図」
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

「瑞牆にある非常に有名な岩です。のっぺりして特徴がなさそうですが、よくみると名前の由来となったぶち模様がわかります。難易度の高い岩でもあります」
※現在は登山禁止

・「ウイスキーボトル」
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

「小川山にあります。
遊歩道から茂みの中を奥深くに入っていくので見つけにくいですが、遠目から見ると、名前の由来がわからなくもない感じです」

●変わった名前の課題が付けられた岩
・「勅使河原美加の半生」
※同名で戸川純が歌った曲のタイトル(作詞:戸川純/作曲:吉川洋一郎)があるが、関連があるか否かは不明。
・「大晦日」
・「さむけ」
・「大いなる河の流れ」
・「魅惑の丸こんにゃく」(初登者:室井登喜男)
・「穴社長」(初登者:寺島由彦)
・「凄まじい平ら」
・「頭痛」
・「石の塊」
・「残念」(初登者:草野俊達)
・「ミダラ」(初登者:小山田大)

●坂口さん、好きな岩を求めて高知へ
せっかくなので、名前以外の観点からも、坂口さんの好きな岩を紹介してもらった。
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

「景観を含めて好きなのは、高知市の春野漁港にある岩です。ここには他に登れる岩がないので特に岩の名前はついていないようで、場所そのまま『春野漁港』と呼ばれ、人気の課題は「松風(一級)という風光明媚な名が付けられています。ここを含め、高知の海岸線にある岩は黒潮ボルダーと呼ばれているのですが、ネットで調べてみると、どうやらすべて黒潮さんという方が一人で岩を開発して名前を付けているようです」
坂口さんによると、きっと黒潮さんという方はボルダリングをするために生まれてきたような方なのだろう、とのこと。非常に“画になる”岩だ。
 

ちなみに、坂口さん自身は「そこまでの体力がないので……」という理由で、ボルダリングには挑戦せず、岩の撮影に専念している。
「知らない人にはただの大きな岩に変わった名前が付けられて、難易度のグレードが愛好家の間で広くシェアされていることが分かって、岩を撮影しようと思いました」(坂口さん)

撮影時は複数のストロボを使用するが、ほとんどすべて奥様も同行して、ストロボの機材を持つそうだ。なんて仲が良いのだろうか。夫婦の信頼関係も岩のように厚いのであった。
(取材・文/やきそばかおる  写真/坂口トモユキ)

●『エイトマン』『デッドエンド』
「ガリガリ君」「きたない大岩」「とけたソフトクリーム」と呼ばれる岩がある

※写真は『エイトマン』の表紙。
坂口トモユキさんが撮影した岩の写真集は『コミックマーケット78』(東京ビッグサイト)でも頒布。

2014年12月28日(日)西館 く-42aサークル「tsaka.jp」にて。
種子島ロケット打ち上げ写真集、痛車写真集など、坂口さんが発行している他の写真集冊子も頒布予定です。