1月12日、NHK特番で『知られざるコミケの世界』が放映されました。
コミックマーケット87に実際に取材に行き、生の映像を映すというもの。
顔や出展物にモザイク等はほとんどかけない、ありのままを映そうとする企画でした。
全体的にコミケに対して、好意的な姿勢。
いかに楽しくみんなが盛り上がっている場所なのかを解説していました。
そういえばコミケ87にはNHKも出展していましたね。
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ところが放映後、Twitterでは「これは光のコミケだ」「闇のコミケを映していない」という声が一気にあがりました。
えっ、光? 闇?
「きれいなところばっかり撮って、ドロドロした部分は映していないじゃないか」という話。
いやいやドロドロなんて見たくないじゃん! 
と思いつつも、その気持ち、コミケに通い詰めて何年もたつ自分も、ちょっとだけわかるのです。

1・今まで虐げられてきた反動からのコンプレックス
オタク文化に対する報道は、「珍妙なもの」という扱いが多かった。
例えば以前のTVタックル。
大炎上「TVタックル」アニメ規制特集、規制賛成派から見た「オタク」の姿 - エキレビ!(1/4)
偏向報道とは言い切れません。ただ「そういう目で見られているのか」というショックを感じた人は多かった様子。
特に未だに宮崎勤事件の時のバッシングを覚えている人、テレビの発言で心に傷を負った人、オタク趣味を「テレビでオタクは云々」と言われて家族に隠さざるを得なかった人にしてみれば、メディアに対しての反感は、ものすごく大きいです。





NHKは以前から「MAGネット」をはじめ、多くの「オタク向けサブカルチャー番組」を手がけていました。「日本戦後サブカルチャー史」でもオタク文化はひとつのカルチャーだと解説。
そんなNHKであっても、やはり拒絶反応は出ます。
特に今まで「コミケ」を「ぼくたち・わたしたちの解放の場」と捉えていたら。そりゃ、カメラが踏み込んでくることに抵抗も覚えます。

一方で、若い子からは「これでコミケに行けるようになった!」と喜ぶ声もあります。




「NHKでやってるから見る」という家庭は多かった様子。
特に50代の参加者へのインタビューが多く、「普段真面目で、この時だけ楽しむ大人もいる」というのをきちんと見せていました。
インタビューを受けていた人たちも、過剰に絶賛するのではなく「バカなことを出来る場所」、ようは「お祭り」という考え方。
テレビでオタク文化が出てくるとドキッとしていた層が、親や家族に認められると、それはそれでびっくりするのも仕方ない。

2・一言言っておきたいという内側からの視点や警告
ぼくが強く感じたのは、ここでした。
コミケは楽しい場所。自己実現でもあり、バカができる、いろんな人と接し合えるいい場所。異論はない。
しかし「じゃあ楽しそうだからいこう!」となると、「ちょっと待って!」と老婆心が芽生えてしまう。

とにかくコミケは過酷です。特に夏のコミケは、水分塩分しっかりとらないとあっという間に熱中症になります。
冬は多少楽なのですが(寒いけどね)。
Twitterで指摘が非常に多く、「ちゃんと準備はしてこいよ!」と先輩からのメッセージが飛び交っていました。
今回のテレビを見て親許可がおり、コミケ初参加できます、という人は多少なりともいるでしょう。
是非コミケ常連からの「ここを気をつけてね」メッセージは、目を通してほしいところ。嘘はついてない、みんなのためですから。

もう一点、「店」と「お客さん」という表現があったこと。
コミケは売り買いではありません。出展者、買い手、ともに「参加者である」という理念に基いて動いています。
これを30分ちょいの番組で、全くコミケを知らない人に説明するのは大変むずかしい。苦肉の策だったように思えます。


ここは、今後新規の参加者が、おいおい知っていくことになる部分。
むしろ、身近な人で新規参加する人に「テレビではこう言っていたけど」と教えてあげるのが親切かもしれません。

3・自分が見ているコミケ=コミケの全体像とのギャップ
一番多かったのは「俺の知っているコミケと違う」という意見。
特にR18ジャンルで活動している人には、違和感があったかもしれません。
登場していたのは、「艦これ」同人誌を作る東北で震災の被害にあった方、豆絵本を作っている方、16歳でフリーゲームを作っている方、お坊さんで同人活動をしている蝉丸P。確かに爽やかです。

実はよーく見ると、R18のサークル(男性向け女性向けともに)が画面に映っていることに、ぼくはものすごく驚きました。
一応「公序良俗に反しない」ギリギリのライン。とはいえその肌色、放送しちゃってだいじょうぶ!?

今回きちんと、R18や表現規制に関しても触れていました。


さすがにチェックされた本文(NGを食らった様子)はぼかして映されませんでした。
なんでもかんでもいいわけじゃない、けれども表現の自由は認めていきたい。
多くの参加者が一度は頭を悩ませる部分にまで、踏み込んでいます。

コミケ会場は、あまりにも広い。
しかも三日間それぞれ、世界が変わったように別物になります。机の配置は全く変わらないはずなのに……。
たとえばR18メインに巡っている人から見たコミケは、肌色の多い世界でしょう。BLメインの人なら、オトコたちの世界でしょう。小物系中心に回る人は、手作りアクセが楽しいイベントですし、評論系サークル好きなら、いかにマニアックな本が出ているか楽しみなはず。
それぞれ噛み合わない。お互いのジャンルにはそうそう行かない。


今回の番組では、その一部も一部、ごくわずかしか触れていません。
だからこそ「俺こんなにコミケ通ってるのに知らないコミケだ」というのは、ある意味当然だったのかもしれません。
ぼくにとっても「知らないコミケ」でした。

もし今回の番組を通じて「光のコミケ」「闇のコミケ」という言葉ができるのだとしたら、「闇のコミケ」にあたるのは、徹夜組(禁止されているのに徹夜で行列を作る人のこと)やローアングラー(コスプレを下から撮影しようとする人)や転売ヤー(同人誌を買い占めてネットオークションで売りさばく人)など、犯罪的な部分でしょう。
ぼくはR18やBLも含めて、表現できる場を持って人に差し出すのは「光のコミケ」だと思います。

無論、自分の欲望を出して頒布・購入するのは、後ろめたい。
後ろめたさの影は、同好の士と接したりコミュニケーションをとったりして、光があたってまぶしい感じているから生まれるんじゃないか。
そんな影の部分が、ぼくは楽しい。

(たまごまご)