キャビアといえば、トリュフやフォアグラと並ぶ世界三大珍味のひとつ。正体はチョウザメと呼ばれる魚の卵だ。
ただし、チョウザメは“サメ”とはつくが、軟骨魚ではなく硬骨魚であり、いわゆる“サメ”の仲間ではない。姿がサメに似ていること、背中の骨が蝶々に似ているのが名前の由来といわれている。

そんなチョウザメを使った新しい調味料を見つけた。それが、兵庫県香美町小代(かみちょうおじろ)の小代内水面組合が昨年12月に発売した「蝶のしずく」。なんとこれ、チョウザメを使った魚醤なのだ。

魚醤とは魚を塩漬けにしたもので、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムが有名だろう。日本にもハタハタを使った秋田のしょっつるなどがあるが、さすがにチョウザメを使った魚醤は日本初。おそらく世界でも初めてかも!

早速、味見をしてみた。見た目は醤油のような色でサラリとしているが、ひと口食べてみると甘みのある濃厚なコクが口いっぱいに広がった。動物性タンパク質を発酵させたものにありがちな独特の臭みは全くなく、上品な旨味が後を引く。ちょっとお行儀は悪いが、スプーンに少量とってペロリとなめたくなっちゃうくらいおいしいのだ。

香美町小代区では昔からチョウザメの養殖がおこなわれており、キャビアを販売してきた。
卵以外も魚肉などは料理に活用してきたが、それ以外のアラは捨てられていた。そうした部分も有効利用できないか? と考え、と開発されたのがこの魚醤「蝶のしずく」である。

正式な販売が始まったのは去年の12月だが、計画は5年以上前からスタート。ちなみに東京海洋大学に魚醤の成分分析を依頼したところ、生活習慣病や疲労回復に効果があるといわれるカルノシンや肝臓や眼球の代謝を助けるタウリンを非常に豊富に含むことも判明したそう。おいしいうえに栄養価も高いなんて、嬉しすぎる!

いろいろな料理に使えるのも魅力だ。家庭で使うなら焼き魚の仕上げにもいいし、卵かけご飯の醤油替わりにするのもオススメ。野菜炒めやチャーハンの隠し味に使えば風味がぐっと引き立つし、そのままつけ醤油として使うのも贅沢な味わい方だ。近ごろはプロの料理人からも注目を集めており、神戸市の「ホテルラ・スイート神戸ハーバーランド」のレストラン「ル・クール神戸」では2月末までチョウザメのムニエルを提供中。ソースの隠し味に、この「蝶のしずく」が使われている。

「蝶のしずく」の製造は、トビウオを使った魚醤なども手掛けたことがある兵庫県内の「大徳醤油」が担当。麹と塩でシンプルに発酵させており、クセのない上品な味わいは子供からお年寄りにまで好評で、香美町では学校給食の調味料にも使われているという。まだ大量生産ができる体制ではないので、現在のところ商品が購入できるのは、香美町内の道の駅や温浴施設などに限られているが、今後販路は広げていきたいとのこと。


もともとキャビアを産むチョウザメという世界的に有名な食材だけに今後の広がりは未知数。和食ブームを背景にいずれは世界に……なんてことも大いにありえそうだ。香美町では旅館などでも使われているそうなので、まずは現地で試してみては?
(古屋江美子)
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