今季、イチローはメジャー最年長の野手として新天地マーリンズで新シーズンを迎える。一方、去年までそのイチローとヤンキースでチームメイトだった田中将大は、昨年の肘痛での離脱を感じさせない調整をキャンプで見せている。


そんな日本選手の中で投打の中心となっている2人を近くで見てきた人物がいる。その人物の名は奥村幸治。彼はオリックス時代、イチロー専属の打撃投手を務め、「イチローの恋人」とまで言われた。そしてオリックス退団後は中学硬式野球の強豪となる「宝塚ボーイズ」を結成。田中はそのチームでの教え子に当たる。
そんな彼がイチローと田中の二人の思考法について語った超一流の勝負力 マー君とイチローが実践した「自分を超える」思考法(著:奥村幸治/SB新書)
から日本野球のトップをひた走る2人の共通点を見つけていこう。


【愚痴こぼさず、何事も自らの責任と考える】


人間であれば、ついつい現状に対して文句を言ってしまいがちだ。しかし、2人は絶対に愚痴を言わない
イチローがブレイクする前のオリックスでは、愚痴を言う選手たちのグループがいくつかあったらしい。だが、イチローは決してそのグループに加わろうとしなかった。さらに、首脳陣の理不尽な理由で2軍落ちになったときも愚痴を言うことなく、結果で示すべく努力を重ねた。
そして田中も中学時代にエラーした選手に対して、文句を言わず「まだ試合終わってないぞ、絶対勝てる」と励ましたり、プロ入り後、10回1失点の好成績も味方の援護なく勝てなかった時に「勝てない責任は自分にある」と語ったりしている。

【ルーティンを持つ】


それぞれルーティン(決まった仕草や習慣)があるのも共通する。
イチローはバッターボックスに入って打つ前、必ずおなじみのバットを立てるポーズをする。
それに留まらず、ベンチに座る位置、バットを置く位置、階段をどの足から登るかなども決まっている。
その一方、田中は、楽天時代にバッテリーを組んだ嶋いわく、走者がいないときは帽子浅く被るが、得点圏にランナーを置くと帽子を深く被り直すらしい。
このように決まったことを必ず行う習慣をつけることで集中力を高めているのだろう。

【謝ることができる】


実績を残せば残すほど、傲慢になって謝ることができなくなる人もいる。しかしこの2人は例外だ。
イチローは2009年にWBCに出場したが不振を極めた。特に彼自身、「心が折れかけた」と語った第2ラウンドキューバ戦でのバント失敗はドン底だっただろう。
しかし、バント失敗後にベンチに戻ったイチローは「スマン、俺のせいだ、何とかしてくれ」とベンチの中で声を出していたと原監督が後に語っている。
また、本書内では、田中が高校3年生の夏甲子園の青森山田戦で打ち込まれたとき、「みんな、ごめん」と謝った姿が紹介されている。
この2人に共通するのは、チームの中心となっているにもかかわらず、結果を残すことができないと素直にチームメイトに謝っている点だ。あくまで自分のことだけではなく、チームのことを第一に考えている姿勢を目にした仲間たちは自ずと奮起する。

【現状で満足しない】


どんな実績を残しても傲慢になることのない彼らは現状で満足をすることを知らない。
イチローはどんなに結果を残したフォームであってもそれを続けることなく、新フォームに変える。
これについてあるテレビ番組のインタビューでは「打撃に完成形はない」「打撃は生き物。
常に進化、変化、修正を続けていかなくてはいけない」と語っている。
また、イチローと同じように田中もヤンキース移籍後、メジャー初完封を記録するなど絶好調だった際、「まだここでの成功を宣言するのは早い。毎日もっといい投手になるために努力するべきだ。」と記者に対して語った。
どんなに結果を出しても"次"を見据えている姿勢が超一流の所以なのだろう。

【逆境でも腐らない】


このような強靭な精神力を持つ彼らは逆境に置かれても乗り切ることができる。ここ2年、イチローはヤンキースで結果を出していてもベンチを温める、という機会が多かった。

だが、イチローは決して準備を怠ることはない。たとえば、NHKの番組でイチローの通訳がこんなことを語った。2013年最終戦、優勝の可能性がなくなったヤンキースは誰もベテランが出場しなかった。この試合は若手の選手を試す消化試合という位置づけだったため、ベテラン選手はみな、スパイクもはいていない状態であったという。しかし、イチローだけはいつでも出場できるように準備し、延長14回には裏のロッカーで出番に備えて素振りをしていた。
そして、田中は2010年に右大胸筋部分断裂でシーズン中での復帰が絶望になった際、ブログで「人生に無駄なんて事はない! この時間を生かすも殺すも自分次第やと思う」と書き、その言葉通り翌シーズンには、初のタイトルとなる最多勝・最優秀防御率、さらには投手最高の名誉となる沢村賞を獲得した。
まさに逆境でも腐らず、"生かす"ことができた結果ではないだろうか。

いくつかの点で共通点がある両者は違うチーム、さらには違うリーグの選手として新シーズンを迎える。日本の野球をこれまで引っ張ってきたイチローとこれからその役目を背負うであろう田中という違いはあれど、ともに超1流に共通する思考をもっていることに疑いはない。
日本のファンとしては2人がワールドシリーズという最高の場で対戦する姿を見られることを期待したい。
(さのゆう)