スタジオ地図、と言うアニメーション制作会社があります。
細田守が『おおかみこどもの雨と雪』のあとに作った、世界で最も小規模なアニメーション制作会社。

そのロゴが、これです。
今夜金曜ロードSHOW「時をかける少女」をあの日僕らは応援していた。快楽を誰かに、伝えたかったんだ
オフィシャルサイトより。表現の無限の可能性にチャレンジしたい、新大陸を見つけ、地図を描きたい、という意図がこめられているそうです(『バケモノの子』パンフレットより)

力いっぱいに飛び出す少女のシルエット。
『時をかける少女』のヒロイン、真琴です。
ロゴシルエット。ジブリならトトロ、TOEI ANIMATIONなら長靴をはいた猫の立ち位置。

夢中になって真琴たちを応援したあの日


今夜金曜ロードSHOW「時をかける少女」をあの日僕らは応援していた。快楽を誰かに、伝えたかったんだ
細田守のトレードマークとも言える入道雲と、飛び出す少女。この絵にどれだけの人がやられたことか!

2006年。
『時をかける少女』は、初週の上映数は6館。13本のフィルムで公開していました。
ミニシアター的に「後日公開」もあわせて発表された上映館も、全部で21館。決して多くない。

ところが、インターネットで火が付きました。すげえアニメがあるぞと。
上映館では立ち見ができ、慌てて上映館を増やしました。

その後は応援応援の嵐。DVDが出るまでロングラン上映されました。

当時ぼくは、何回見たか覚えてないくらい、映画館に通ったもんです。
「こんなすごい映画がある! もっと広がって欲しい! 映画に通ってお金を払うことで、もしかしたらその思いが叶うかもしれない!」
お祭り気分もちょっとあったけどね。でも本気でそう思ってた。
今夜金曜ロードSHOW「時をかける少女」をあの日僕らは応援していた。快楽を誰かに、伝えたかったんだ
降りていく坂。だけど登っていくように見える。ちなみにモデルになっている踏切近辺には、坂はありません。

踏切に坂道直進しているのは、あまりにも危険すぎる。
キャラクターの影を排除することで、動きを重視する技法は面白い。
「おジャ魔女どれみドッカ〜ン!」でも使われていたY字路は、多分横尾忠則の影響だろう。

わかってる、わかってるんだ。
そんな細かい部分はどうでもいいんだ。
この映画、ただただ見ることが快楽だったんだ。
快楽を誰かに、伝えたかったんだ。


走る少女


細田守は、ワンシーンを見せることに長けた作家です。
何が何でも、このシーンを見せる。
多少つじつまがあわなくてもいい。
『時をかける少女』でいえば、それは「真琴が走るシーン」です。

彼女をずっとカメラで追っていく。
苦しそうに、いろんな思いを抱えて、何もかもかなぐり捨ててひたすら走る。
精一杯走る彼女の現場に立ち会うことが、エンタメになっている。

細田「僕が作る時にもその「体験」のようなものを意識して作ってますよ。それは単純に感情移入度を高めるとか、そういう事じゃなくて、たとえばある1人の人の出来事に立ち会う感じだと思うんだけど。(中略)突然、人が死んでしまったりすると、今だったらドラマチック過ぎるとか、もしくはプロットが破綻していると言われるかもしれない。でも、そう言って切り捨てるのは、物語的な見方に寄り過ぎると思う」
細田守×小黒祐一郎対談より)

『時をかける少女』には、説明なしだけど印象的なシーンがたくさんあります。
千昭の告白に対し、毎回「それよりうちの妹がバカでさー」と唐突に妹のネタでごまかす。
真琴が持ってくる昼食のパンと飲み物が、やけくそにでかい。

タイムリープのために、無謀にもプールの高飛び込みから飛び降り。
「その馬鹿なやつって、あたし?」と真琴が突然観客の方を見る。
壊れた真琴の自転車を、偶然にも借りていったと知った瞬間のショック。

一つ一つの出来事の「理屈」はあまりつながっていない。
たくさんの面白パーツをバラバラにつくって、並べていったかのよう。

でっかい世界の小さい視野


細田守は大きな世界の物語を作ってはいても、重視はしていません。
彼が興味を持っているのは、生きている人間の小さな悩み事。

事故とか、千昭の抱える大問題とかは、物語上にはある。
でもそれよりちっちゃな恋愛に物語は終始します。高校生だもん。

『時をかける少女』は特に、この後の作品群と違ってテーマがシンプル。社会問題や世の中の歪みに、踏み込んでいません。

だからこそ、少女の疾走感と細田演出は、過不足なくカチッとはまりました。

ってかさ。
走る女の子ってずるいよ。
あざといよ。
そりゃ応援もするよ! 一緒に野球したいよ!! 何あの青春!!!
テレビを見ながら「よろしくおねがいしまーーす!」のかわりに、Twitterで「それよりうちの妹がバカでさー」を合唱しましょう。

(たまごまご)
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