1993年11月にアメリカのコロラド州デンバーで開催された『ジ・アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ1』(略して『UFC1』)は、その後の格闘技のあり方を激変させた。
金網に囲まれた八角形のリングの中で行われる、目潰し、噛み付き、金的攻撃以外がすべてOKの闘い。
レフェリーも存在せず、どちらかが戦闘不能になるまで闘うという、まさにマンガでしかありえないような世界が現実に登場したのだ。

【格闘マンガの世界が現実に!?】


このUFCの創始者は、ホリオン・グレイシー。あの「グレイシー一族」の長兄である。
そして、この大会で実弟のホイス・グレイシーが鮮烈なデビューを飾る。
第1回大会は、プロレス、ボクシング、空手、相撲、キックボクシング、テコンドー、サバット(フランス式ボクシング)、そして格闘マンガでいえば主人公に当たるグレイシー柔術のホイスによる8名参加のワンデートーナメント。
この時点でのホイスは、どこの馬の骨かも知れない無名の柔術家であった。
格闘マンガの金字塔『グラップラー刃牙』のように、血みどろの潰し合が繰り広げる中、軽量でヤサ男風のホイスがノーダメージのまますべての試合に圧勝する様は痛快そのもの。
ただし、「主人公」ホイスの動きが恐ろしく地味で、寝技主体の無駄のない動きはマンガと違って派手さには欠けたのだが……。
さらに、『UFC1』で見事優勝を成し遂げたホイスは、「兄のヒクソンは私の十倍強い」と衝撃発言!
格闘マンガの新連載としたら、最高すぎる滑り出し。人気アンケートも殺到間違いなしだ。
この劇的なエンディングを含め、「バーリ・トゥード(なんでもあり)」という試合形式と「グレイシー柔術」の名は世界に轟くことに。そして、そんじょそこらの格闘マンガを凌駕する展開で、格闘技新時代の夜明けを迎えることとなる。

【忍術やカンフーも登場した第2回UFC】


翌94年に開催された『UFC2』では参加選手も16名に拡大し、金的攻撃も解禁に。シリーズ続編にふさわしいスケールアップである。

出場選手の格闘技のバックボーンもさらに多彩になり、カンフーサンスー、ベンチャック・シラット、詠春拳、五獣拳、アメリカン忍術などなど、一癖も二癖もある「新キャラ」が登場!
相当な格闘技マニアでも守備範囲外としか思えないラインナップだが、この顔ぶれも実にマンガ的。優勝戦線を賑わすダークホースとなれば完璧だったが、現実はシビアでいずれも2回戦止まりで終わっている。
この大会でもホイスは圧倒的強さを見せて2連覇を達成! 止まらぬ勢いのまま、続く『UFC3』にも連続参戦を果たす。
ある意味、シリーズの完結編。ハッピーエンドが望まれたが……。

【第3回UFCでは、忍者がまさかの優勝!?】


無敗のホイスは1回戦で全身にタトゥーが施された「怪人」キモと対戦。勝ったものの、ダメージが大きく準決勝を棄権してしまう。
さらにリタイアする選手が続出し、優勝はまさかの補欠選手という結果に。ちなみに、その選手は戸隠流忍術の使い手を自称する警察官であった。
格闘マンガだったら作者がぶん投げたとしか思えないほどのバッドエンドの結末。現実は非情である……。

グレイシー柔術が席巻した時代も今や昔、現在のUFCは世界最高峰の総合格闘技のイベントにまで成長した。
整備されたルールの元、そのルールを熟知した上で鍛え抜かれたアスリートたちが強さを競い合っている。
それはまるで、ハチャメチャでも面白さ重視の少年誌から、リアルを追求した青年誌に移行した格闘マンガを思わせる。あなたの好みはどちらですか?
(バーグマン田形)
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