
一見似通っているが、バスごとに色合いもパターンも少しずつ違い、乗るたびについつい写真に撮ってしまう。「バスの座席Tシャツ」があったら買って着たいほどだ。
そんな中、ふと「このデザインはどこでどのように生まれているものなのか」と、不思議に思った。そこで、路線バスや観光バス用座席シートにおいて国内の9割のシェアを占めるという天龍工業株式会社に問い合わせると、まず、シートそのものと、表面に貼られている布地は別のメーカーによって作られているのだという(天龍工業はシートの設計・開発を行う企業である)。シート表面の布地を「表皮材」と呼び、その表皮材を作るメーカーが複数存在すると教えていただいた。バスの座席のデザインの多くは、バスの運営会社と表皮材メーカーとのやり取りで決定されるものだとか。
そこで次に、カーペットやカーテンなどのインテリアから、バスや鉄道の内装・外装材までを幅広く手掛ける住江織物株式会社に問い合わせてみた。同社は表皮材メーカーとしても国内最大手の企業である。その結果、今回、住江織物株式会社・車両開発部デザイングループの島津さんに表皮材にまつわるあれこれについてお話を聞くことができた。バス座席シートのデザインの謎がここに解き明かされる!
――そもそも、住江織物ではいつ頃からバスのシート(表皮材)を作られているんでしょうか?
「弊社は今年で創業から132年、合資会社創立から102年になるのですが、初めてバスを手掛けたのは1924年(大正13年)、東京市バスに無地のモケットを納めたのが始まりです。モケットというのはパイル織物の一種で、肌触りがよく耐久性があるのでバスや鉄道の座席シートに多く使われている織物になります。昔は化学繊維ではなく、ウールやモヘア(ヤギの毛)を素材にしていたんですが、今は主にポリエステルです」
――バスの表皮材だけでもすごい歴史なのですね。

「観光バス、路線バス、高速バスでそれぞれデザインのイメージが少しずつ違うんですよ。まず観光バスに関していうと、1970年代あたりの団体旅行が盛んだった頃のバスは、天井にシャンデリアがついていたりして"走る宴会場"的なものだったので、表皮材も赤を基調とした派手なデザインが主流でした。もとはヨーロッパのデザインの模倣から始まっているのですが、中央に柄があって両サイドが無地という、『センター柄』というようなものも多く、バブル期の手前ぐらいまではそういうデザインが主でしたね」

――確かに!子どものころ、こういう雰囲気のバスに乗った記憶があります。懐かしい……。
「それに対して路線バスは無地で、シンプルな柄が多かったです。それがここ最近になると、総柄と呼ばれるものが主流になってきました。先ほどのセンター柄ですと、柄をシートの中心に合わせる必要があるんですね。その部分で工賃がかかってしまいます。それに対して総柄であれば、デザインがランダムでセンター合わせの必要がありませんので、効率がいい、コストダウンできるということで好まれているのではないかと思います」

――これぞ私のイメージするバスの座席のデザインです。でも資料を見せていただくと意外にもバリエーションが豊富なんですね。

「2001年頃からの観光バスの座席デザインの変遷を分析しているんですが、2001年頃はそれでもまだ柄のバリエーションが多いんですけど、これが最近になると非常にブルー系が多く、あとはブラウン系がほんの少しぐらいになっているんです。しかもその傾向が10年以上続いているんですよ。

――なるほど、あのカラフルなパターンには汚れが目立たなくなるという利点があったのですね。住江織物としては様々な色合いのデザインを提案しているんですか?
「はい。たくさん用意してるんですけど売れないんですよ(笑)弊社としても、紫ベースにするとか黒ベースにするとか、様々なものを提案してみてはいるんですが、最終的にはやはり、こういったブルー系の柄が人気になります。ただ、さすがに10数年もやってくるとちょっと柄を変えていきたいなあというのもあって、それはバス会社さんにしても同じだと思うんですが、例えば昔のセンター柄に似たような、無地を2色組み合わせたツートーン柄というのが増えてきています。高級感のある柄で、ハイクラスの高速バスなどでも使われています」

――ちなみに、だいたいどれぐらいのデザインパターンを提案するのですか?
「常時10アイテムぐらいを汎用デザインとして持っていて、それを提案し、バス会社さんと検討していきます。デザインから弊社でやっていて、汎用品も2年に一度ぐらいのペースで見直します。ただ、同じ系統のものを長くやっているとネタがだんだん尽きてくる(笑)そこをなんとか細かい部分で試作しなおして、一つのデザインを決めるのに10パターンぐらいのものを作って絞り込んでいます」
――なるほど、総柄の汎用的なデザインも好きですが、これから個性的なデザインがまた増えてくるといいですね。
「同じ傾向が続いていましたので、こちらとしても、少しひねってご提案するようにはしています。また、最近はインクジェットを使った表皮材も人気で、これですと小ロットでできるんです。
とのことで、今後もバスの座席デザインから目が離せない!
ちなみに、「バスの座席柄のTシャツがあったらいいのにと思います!」とお伝えすると「あはは、アパレルではどうですかねぇ(笑)」と笑われてしまった。いつか自分用に作りたい!
(スズキナオ)