美空ひばりがしっとり歌う「♪サムタァ~イムス アイ ワンダ~~」。または、アンプ・スピーカー内蔵ギター「ZO-3」の“ジャジャジャ”というイントロからの、「♪ヒッパレ~ヒッパレ~」。

どちらかを聞けば、気分はすぐ、金曜深夜のフジテレビに飛ぶ。

【ビートたけしと高田文夫の共演】


ビートたけしの深夜バラエティ、『北野ファンクラブ』。ひばりの曲はオープニングを飾るジャズ・スタンダードの名曲「スターダスト」の絶品カバーだ。

番組のメインは、高田文夫とのフリートーク。もともと高田文夫とは『ビートたけしのオールナイトニッポン』で一緒にトークしていたが、オールナイトニッポン終了からほどなくして始まったこの番組は、そのノリをそのままテレビに持ち込んだようなスタイルに。
セットもどこかラジオの雰囲気を踏襲しているのか、たけしと高田が向かい合って座り、週刊誌や東スポを眺めたりしながらその週の芸能ニュースや話題の人物などについて、たけしと高田が喋り倒していた。

【ビートたけしが歌う下ネタ満載の替え歌】


番組内には、たけし軍団も出演するいくつかのミニコーナーが挿入されていくわけだが、深夜ならではの下ネタ、脱力ネタがいちばんの魅力だった。

なかでも印象深いのが、たけしが工務店風のファッションで歌う下ネタ満載の替え歌。
枝豆やらっきょとともに、グレート義太夫がつまびくZO-3ギターに合わせて、たけしとガダルカナル・タカ、井手らっきょの3人が、ただただ歌うコーナー「亀有ブラザーズ」。コーナー冒頭には毎回、「♪ひっぱれ~」と「ヒットパレード」の替え歌を歌っていた。
どぶろっくよりも直接的であり、ソノモノの名称を入れたり、露骨すぎて「ピー」音が入ったりも。一言でいえば「くだらない」。たまに時事ネタもあったりするけれど、意味はほぼない。だが、だから、だけど(どれだろう?)、やたら面白い。
子どもの下ネタと基本的には同じレベルかもしれないが、深夜ということもあってか、ただただ笑えた。

【ビートたけしが海パン姿に】


コントも時折やる。ここでもやはり、小学生的下ネタを存分に発揮したものがやはり抜群に面白く、くだらない。

いくつかのキャラクターコントも生まれたが、中でもインパクトあったのが、たけしが競泳用の海パン姿で登場し事件に挑む、「海パン刑事」だ。これも、事件現場というシチュエーション以外は大した意味もない。ただ、海パンのたけしが、そこにいる。それがすべて。
殺人現場や強盗、立てこもりなど事件現場に海パン刑事が現れる。大きなリアクションやギャグをやるでもなく、すっとぼけた空気のたけし。スノッブさはみじんもない、シンプルなシュールさ。
後に、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」で、「海パン刑事 汚野たけし」というオマージュキャラも誕生し、番組終了後も時折活躍する人気キャラにもなっている。

【全裸の井手らっきょが「透明人間」】


この海パン刑事の方法論(?)をさらに進化させたのが、井手らっきょの演じた「透明人間」だ。
透明人間モノの定石として、衣服を脱いだら完全に透明に、というものがある。
その設定を「悪用」する演出。らっきょがパンツ一丁になり、さらにそのブリーフも脱ぐ。すると、周囲の警官やくの軍団員たちが、「透明人間だ!」「どこだ!」と大騒ぎする。でも、画面に映っているのは、すっぱだかのらっきょ。清々しいくだらなさである。

番組スタートは1991年。ほぼ同時期にブルーリボン賞や、いくつかの国際映画祭で受賞し、「世界の北野」としての活躍が始まっている。
それなのに、番組ではずっと下ネタを言い続け、半裸になり続けた。それが何かのバランスどりだったのかもしれないが、そこもまたすごい、金曜深夜のフジテレビだった。
(太田サトル)
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