初版道講座は30歳以下限定

――初版道とはどういうものですか?
初版道といってしまうと大変おこがましいのですが、僕が15歳の時から今まで40年間に5万冊ほど集めた初版本の知識を、後世にお伝えしたいと思い募集した次第です。
――このあいだの初版道講座の募集には年齢制限がありました。30歳以下限定だったわけですがなぜでしょう?
古書展に来る人の年齢層は平均50歳以上で、若い人は本当に少ないんです。多くの若い人は古書を手にしたことすらない。僕は今55歳ですけれど、初版本を集めているコレクターは僕より年上の人ばかり。要は世代交代が行われていない。初版本を集める人でいえば、若い人は絶滅危惧種なんです。
自分が長い間、趣味としてやっていたことが絶えてしまうのは寂しい話です。その面白さを伝えて、それでやりたい人がいてくれればいい。そこで対象年齢を若くしたわけです。もし年齢制限がなければ、年配の人ばかりが来るのが目に見えていますし。
――初版本の魅力とはなんでしょう?
研究的な意義とは別に趣味の世界でいうと、作家にとって初めて出した本である初版本は、一生懸命文章を推敲し、装丁も相談して考えた思いの詰まった物。たとえば『こころ』を文庫本で読むのと、全集で読むのと、初版本で読むのとでは中身はほとんど違わないわけですよね。でも初版本を手に取れば、『こころ』が最初に出版された大正3年の漱石の息遣いが感じられる。特に、僕が集めている明治や大正の初版本だと時代の息吹がある。今の本と違って、木版の装丁だったり活版印刷であったり、オリジナルの素晴らしさを感じられます。
同じ初版本を30冊以上保有していた

――ところで初版道さんが初めて初版本に興味をもったきっかけはなんでしょう?
小学生の時、自分の部屋に祖父が持っていた文学書などの本があって読み始め、文学や作家に興味を持つようになりました。そして高校時代に学校の図書館で初版の復刻本を手にしたら、自然に『みだれ髪』や『若菜集』のオリジナルが欲しいなと思った。そこから蒐集をはじめました。
――先日は太宰治の初版本を30冊プレゼントされていましたが、同じ本をたくさん持っているということでしょうか?
もちろん30冊プレゼントしたのでそれ以上は持っていました。
――実際に初版本を集めるにはどうしたらいいでしょう?
昔は古本屋を回るか、古書目録を頼りにするしかなかった。今はネットが集めるのに有力なツールになりましたね。ヤフーオークションや日本の古本屋というサイトで購入することも増えました。
――今の本には初版の価値がないような気がしますがどうなんでしょう?
集めたい作家がいるかどうかの問題とともに、装丁自体、木版画が入っているとか、凝った函が付いているといった欲しいと思う要素が少なくなっています。コストをカットして発行しているわけですから、上製の函が付いている本も少ない。
それと今は、初版の発行部数が多いですよね。商業ベースなので100部や200部はありえない。だから今の初版本は、買おうと思えばそんなに難しくない本が多いわけです。コレクターズ・アイテムというのは、なかなか手に入らない物を指します。切手でもコインでも本でも同じですね。好きな作家、たとえば村上春樹だったら、初版本がほしいという人は今でもいると思います。ですが、近年の村上の本ならば初版が何万部も出ているので、署名でもない限りコレクターが集める対象にはならないというわけです。
太宰治展は、初版道さんの関係している大学の学園祭の目玉として企画された催し。芥川龍之介、梶井基次郎、宮沢賢治、太宰治と毎年続けており、今秋は最後に夏目漱石展をするそう。漱石の全初出初版本を手に取って見られるそうなので、漱石ファンには嬉しいニュースですね。
(カシハラ@姐御)