スーパーファミコン用ソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』が発売されたのは、1992年9月のこと。
前作、『ドラゴンクエストIV』につぐ「天空シリーズ」の2作目に位置づけられているが、天空城や一部装備をのぞき、ストーリー上の直接的なつながりは薄い。

ドラクエシリーズのスーファミ一発目ということで、グラフィックや音楽など、性能面の大幅な向上は言うまでもない。戦闘後にモンスターを仲間にすることができるシステムが導入されたのも本作が最初。個性的なキャラの多いドラクエモンスターを自分の持ちキャラとすることができることも画期的だった。

【ドラゴンクエスト最高傑作 理由は結婚!?】


現在まで10作目まで発売されている本シリーズの中で、本作を最高傑作とする人も多い。それはシステム面や技術面もその理由として挙げられるのだろうが、中盤のビッグイベントが、あまりにも強くプレーヤーに刻み込まれてしまっていることも大きいのではないだろうか。
子ども時代から始まりストーリーとともに成長してきた主人公(=自分)。青年になり、冒険の途中、大きな決断を迫られる。

結婚である。

結婚相手の候補は、ひとりは序盤のストーリーに大きく関わり、冒険も一緒にしたりした、幼なじみのビアンカ。金髪三つ編み。ちょっと活発系でしっかり者。もうひとりは、主人公がとてもお世話になった、大金持ちルドマンさんの一人娘、フローラ。青髪ロング。
やさしいお嬢様系。
どっちと結婚するか。決断を迫られる。

【ビアンカかフローラか 結婚相手に悩む】


ややネタバレではあるが、正直なところ、そこでストーリーが大きく分岐したりするわけではない。能力値も使える呪文や可能な装備がやや違ったり、後に生まれる息子と娘の髪の色が違ったりするが、そこまで極端な差はない。
でも、悩む。ゲーム内ではあるが、一生の選択を迫られるのである。

決断できずにその日はそこでセーブし、一晩考えてみたり(まさに主人公のように)。流れからすると、幼なじみビアンカを選ぶほうが常道かもしれない。でも、けなげなお嬢様フローラも捨てがたい。

結果、ここでセーブデータ「ぼうけんのしょ」を2つ作っておいて、2パターンの人生を楽しむ人、多数。「とりあえずビアンカでエンディング→その後でフローラ」という、優柔不断プレイを、自分もしてしまった。
後に選ばなかったほうの女性と会話をすると、幸せそうな生活をしているものの、ちょっと切なさをにおわせるようなセリフを投げかけてくれるのも、また上手い。


【20年以上も"論争" ドラクエの凄さ】


冒険ファンタジーの世界に、リアルな等身大の人生が持ち込まれたような気分が、何より画期的だった。当時、仲間モンスターで使える奴はどのモンスターかという話と並んで、「どっちにした?」「どっちにする?」と結婚相手について友だちと議論した人も少なくないかと思う。

その後、プレステ2、ニンテンドーDS、配信など何度もリメイクされてきた本作、どっちを選ぶとどうなるか、もちろん熟知している。だけど、やっぱり毎回、悩む。
ビアンカか、フローラか。そんな「ビアンカ・フローラ論争」が、20年以上たっても続くことになるとは全く思いもしなかった。そこからもまた、本作のすごさを感じることができる。


【2007年 ドラゴンクエストに第3の花嫁候補】


そんな“ビアフロ論争”だが、2007年に発売されたDS版のときに、大きな変化が訪れた。
「第3の花嫁候補」が突如投入されたのである。

第3の女性「デボラ」はフローラのお姉さん。黒髪に赤いバラが似合う、気が強い高飛車系。妹のフローラとは真逆のタイプで、ビアンカともまた違う、ワイルド姐さんタイプ。これはこれで捨てがたい魅力を放つ。

そんなわけで、初プレイ時に、「すまん……」とどこか後ろめたい気持ちも抱きながら、昔からよく知っている2人でなく、新たな女を選んでしまう後ろめたいような気持ちもまた、どこか人生のリアリティ、男の性かと。女性プレーヤーの場合、どうなんでしょうか。

人生のリアルを学ぶ、ドラクエV。未プレイの方はぜひ、悩んでほしい。ビアンカか、フローラか、そしてデボラか……。2020年代にもまだ悩んでいたりして。
(太田サトル)
 ドラゴンクエストV 天空の花嫁