
背景も金の屏風やぼんぼりではなく、鳥かごに入った黒い鳥や、ロココ調のフレームなどで細部まで徹底的につくり込まれている。岐阜県にある「後藤人形」)の三代目で人形作家でもある、後藤由香子さんにお話をうかがってみたところ、「衣装の生地は京都・西陣織の職人と相談を重ねながら織っていただくオリジナルで、思うような色がない場合は、糸から染める場合もあります」とのこと。


髪飾りがなんともかわいらしい。ゴスロリびなの場合、画面からはわかりにくいが、髪を衣装に映えるようわずかに茶色っぽいものにしていたり、肌の色を少しピンクがかったものにするなど繊細なこだわりが随所にあるので、ぜひ現物を間近で見て欲しいそう。ひな人形の顔も、時代とともに進化しているというのがおもしろい。
「おひなさまには、娘や孫が将来どんな女性になってほしいかという親御さんや祖父母の願いが込められています。平安時代には、下ぶくれの顔が美人とされていましたが、現代では違いますよね。そのため、伝統的なお顔立ちを守りつつも、現代風に小顔にしたり、メイクを衣装に合わせたものにするなど工夫しています」

左端にあしわれたお花は、女の子が大きくなるにつれネックレスやブローチにするなどの楽しみ方もできるそうだ。ちなみに、伝統とモダンの融合(!?)ともいえるこの「ゴスロリびな」が生まれたきっかけはなんだったのでしょう?
「昔は初節句=当然やるべきものという認識でしたが、現代では住環境や価値観の変化などもあり、必ずしもそうではなくなりました。ですがひな人形は、日本が世界に誇る“愛を伝える文化”です。伝統的な日本家屋が減り、マンションなど洋間の多い住空間でも飾ってみたいと思うようなおひなさまがあれば、という発想から始まりました。
なお、黒い衣装がアバンギャルドだといわれることが多いそうだが、特に伝統を超えようとか、革新的なことをしているという意識はないそうだ。
「たとえば、江戸時代のひな人形には、非常にモダンなものがあります。黒地に赤を差し色にしていたり、驚くほど粋な衣装をまとったものも少なくありません。ひな人形はその時代に応じて、かたちを変えながら、家族の愛情を伝えてきたもの。大切なことは、ひな人形にまつわる温かなエピソードや思い出を、娘さんがわかるようになったときに、ご家族が話してあげられることだと思っています」

ちなみに、「後藤人形」にはこのゴスロリびなのほかにも、斬新なおひなさまがいっぱい。こちらは、森ガールが好みそうな、「森のウェディング」。妖精をテーマにしているそうで、ナチュラル感たっぷり。
「女の子がいないと、ひな人形を飾ってはいけないものと思っている方が多いのですが、そんなことはありません。たとえば日本女性として1年に1度、伝統文化にふれる機会としておひなさまを飾ってもいいと思うんです。おひなさまを飾って、みんなで愛でながら女子会をしたり……もっと自由に、身近な存在として楽しんでいただけたらいいですね」
というわけで、いつまでも眺めていたくなる、雅なおひなさまの世界をご紹介した。ゴスロリファッションが好きな女性にはドール好きも多いので、おひなさまとの親和性はけっこう高いのでは……という気がしないでもない。
(まめこ)